《岩本勉のガン流F論》輝かしいヒストリーになり得る試合
■交流戦2回戦 阪神3ー4日本ハム(6月10日、エスコンフィールド北海道)
加藤豪が決勝打 呼び込んだのは宮西の魂のピッチング
試合には流れがあり、時系列をさかのぼることで結果に至る要因が浮かび上がる。
シビれる試合展開。同点の八回に加藤豪が決勝打を放った。先頭の江越が二塁打で出塁し、続くマルティネスが四球でチャンスを広げた直後の打席だった。鮮やかな得点。直前にベテラン左腕が披露した魂の投球が流れを呼び込んだ。
一見、荒れ球に見える内容に隠されたプロの技とは…
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3―3の八回。先発した伊藤の後を受け、宮西が2番手で登板した。阪神にとってみれば、1番からの好打順。そこを見事に3者凡退。2、3人目はいずれも空振り三振と完璧だった。
一見、荒れ球に見える内容だったが、決してそうではない。2番の中野を迎えたシーン。スライダーで外に目を付けさせ、内角の直球で勝負した。スライダーという伏線を巧みに利用したプロの技だった。そして雄たけびのおまけ付き。3人目のノイジーを空振り三振に切って取ると、ほえた。この魂のピッチングに打線は呼応した。
伊藤の粘りに拍車をかけた万波のスーパープレー
宮西に気合を注入したのは伊藤の投球だ。7回8安打3失点。粘りながら試合をつくった。その粘りを支えたのは五回に飛び出した万波のスーパープレーだろう。2死二塁で、中野の右前打を捕球し、本塁へ矢のような送球。生還を狙った二走の木浪を見事に刺した。ショートバウンドをさばいた捕手の伏見も素晴らしかった。
前日からの〝流れ〟を持ち込み防御率0点台左腕を攻略
試合は一回に動いた。先頭の江越が四球を選んで、続くマルティネスが二塁打。早々と先制した。前日、貴重なホームランを叩き込んでいた江越。その活躍があったからこそ、相手の投球に飛び込むことなく、ボールをしっかりと見極められた。マルティネスも前日2安打の好調ぶりをそのまま持ち込んだ。すべては線でつながるものだ。
慎重さがほしかった伊藤の投球
一つ、期待ゆえの言葉をかけさせてもらいたい。伊藤は一、二回と3者凡退。絶好調に見えた。ただ、そういう時ほど、相手バッターのタイミングに合ってしまい、エアーポケットにハマることがある。「調子は?」の問いには「良かった」と答えられても、「慎重さは?」の質問には考え込んでしまうはずだ。一層の慎重さ。それが唯一の反省材料だ。
新庄監督の采配もズバリ 人は期待され求められると力を発揮
そして指揮官の采配もズバリだった。八回の勝ち越し場面。無死一、二塁で加藤豪が打席に入った。バントも考えられた。いや、大半の監督は犠打を選択するはずだ。だが、新庄監督は好調な加藤豪のバットに懸けた。人は期待され、求められると力を発揮するものだ。
野球にはストーリーがある。シーズンが終われば、会心のストーリーは輝かしいヒストリーになる。この日の試合は、確実にヒストリーになり得るゲームだった。