巨匠・倉本聰氏 35年ぶりの新作映画「海の沈黙」は「50~60年温めていた」
1988年「海へ~See you~」以来
脚本家・倉本聰氏(88)の新作映画「海の沈黙」は、1988年の「海へ~See you~」以来35年ぶりの映画となる。二つの事件を軸に描かれる大人のラブストーリー。「50~60年温めていた」という「美」がテーマの超大作に渾身のメッセージを込める。
きっかけは59年に起きた「永仁の壺事件」
構想は「美」に対する疑問から始まった。きっかけは59年に起きた「永仁の壺事件」。永仁時代の壺が国の重要文化財に指定されていたが、陶芸家の加藤唐九郎による現代の作、つまり「贋作」であることがわかり重要文化財の指定から解除された事件だ。
「非常にショックだった。昨日まで偉い人たちが『美しい、美しい』って言っていたものが、時代が変わっただけで間違っただけで重要文化財から外されるのかっていうことが非常に気になりました」。
画家・中川一政親子の会話からもヒント
この記事は有料会員限定です。
登録すると続きをお読みいただけます。
もう一つの逸話からも大きな影響を受けた。画家・中川一政の代表作「霜のとける道」を描き進めていった際に、キャンパスが尽きたという。そこで岡本太郎の父・岡本一平からもらった絵を塗りつぶして描いたとされている。
「ピカソの絵があったら、お父さんは塗りつぶしますか」
「(中川一政の息子が)『お父さんの作品が塗りつぶされたらどう思いますか?』と質問したら『俺のより優れた作品ができちゃったら文句言えないだろうな』っておっしゃったんです。もう一つ『ピカソの絵があったら、お父さんは塗りつぶしますか』っていう質問をしたんですよ。そしたら『塗りつぶすかもしれんな』って言ったんです。これはものすごく印象に残った」。
「小樽の雰囲気は日本離れしていて、合うなと思った」
果たして「美」とは何なのか―。多くの思いが入り交じりながら、長い時間をかけてまとめたものがこの「海の沈黙」。その舞台の一つに小樽を選んだ。倉本氏は「うちから近い」と冗談めかしながら、「小樽の雰囲気は日本離れしていて、合うなと思った。小樽の街も随分変わりましたね。街って変わって、人も変わる。やっぱりこうやって世の中は変わっていくんだろうなっていう部分ですね」と理由を説明した。
小泉今日子「成熟した大人の芸術、文学の世界のように感じている」
贋作事件と水死体発見事件から始まる今作品は、天才画家と元恋人が織りなす恋慕の物語。出演者の小泉今日子(57)は「エンターテインメント全般がとてもわかりやすい世界になっている中、この倉本先生が書かれた今回の脚本はとても成熟した大人の芸術、文学の世界のように感じている」と話し、中井貴一(61)も「みんなが想像力や妄想力を持って理解してもらえる作品になるように努力して参りたい」と続いた。88歳の巨匠が乗せた思いは、現代だからこそ際立つ作品になるはずだ。