【アーカイブ・2020年連載企画】逆境を乗り越えよう② 日本ハム・田中賢SA 逆境って悪いことばかりじゃない 新しい何かが生まれるはず
新型コロナウイルス感染拡大で国民の生活が脅かされ、各種スポーツ、イベントなど様々な分野で中止、休止となり、東京五輪も1年延期を余儀なくされた。道新スポーツでは、スポーツ選手のみならず道内関係者から自身が経験した逆境と、それを乗り越えた術を語ってもらう。題して「逆境を乗り越えよう」。2回目は昨年惜しまれながら現役を引退した日本ハムの田中賢介スペシャルアドバイザー(SA、38)の後編。(本連載企画は2020年に掲載されたものです)
メジャー2年目途中で自由契約
先輩後輩を問わず慕われるから、周囲には人が絶えない。人望厚い田中SAの人格に影響を与えた決定的出来事がある。メジャー挑戦2年目の2014年。シーズン途中に自由契約となり、予想外の時間が生まれた。
「打ちひしがれたなぁ。残りシーズンが1カ月くらいあるのに、もう米国での契約は無理となった。何しよう? って感じだよ。時間だけはあったから、毎日ボーっとしていた。毎朝釣りに出掛けて竿を投げては、どうしようかなって。起きては釣りに行って家に帰ってから昼寝。ひげもそらずにまるで廃人だね」
毎日釣りと昼寝…自分と向き合う時間を得て
自分の中で時計の針は止まっても、世界は日常通りに動き続けた。野球から少しだけ離れ、釣りを中心とした生活は約1カ月続いた。不本意ながら自分と向き合う時間を得て、不思議な心境にたどり着いた。
「誰にも気付かれず、誰の話題にもならない。たぶんこのまま姿を消しても、誰も何も思わないんだろうなって。そこで『ま、そんなもんだよな!』と思い至った。僕がいてもいなくても、大した影響はないんだって気が付けた。あの時に感じたのは、自分が求められることに重点を置くのは、まずいんだってこと。見返りを求めてはいけないんだ、と」
自分のやりたいことをやろう
日本球界では6度のベストナインに5度のゴールデングラブ賞を獲得。無数のスポットライトを浴びた過去さえ、ちっぽけなことに思えた。挫折を経験したことで得た心境の変化は、素直に受け入れられた。
「人が1人いても、いなくても、世の中って変わらないんだよ。それなら自分がやりたいことをやろうって。僕は『何かをしてもらいたい』をやめて、『人のために何かをやりたい』って思えた。逆境があったから、その考えに行き着いたんだろうね。かわいい子には旅をさせろ、若い時の苦労は買ってでもせよ。よく言われる言葉は、その通りだね。逆境って悪いことばかりじゃないんだ。だから(新型コロナウイルスが大きな影響を与える)今も新しい何かが生まれるはず。みんなで何かを生み出したい」
選手に求めるのは最善の準備
プロ野球開幕の先行きは不透明な状況。球春の到来を待つチームと選手へ、田中SAはメッセージを送る。
「選手に求めるのは最善の準備。プロ野球はファンあってのスポーツ。開幕したときに120%のパフォーマンスを発揮して、野球って本当に面白いなと思わせてほしい。そして何かを発信できる立場であることも自覚すること。ウイルスへの対策も積極的に発信して、終息へ向けて、少しでも人々のためになることを模範となって示してほしい」
(2020年4月2日掲載)