特別企画「逆境を乗り越えよう」の３回目は北海道コンサドーレ札幌MF深井一希（２５）。プロ入り後、前十字靱帯断裂を３度目経験。全治9カ月と言われ、一度でも選手生活を脅かされる大ケガだが、幾度も乗り越え、たどり着いた境地とは－。不屈の男が困難を克服した経験を振り返った。（聞き手・石栗賢）
（本連載企画は２０２０年に掲載されたものです）

膝靱帯断裂3度　自分より周囲がショック受けた

　「僕にとっての逆境はケガが多かったこと。初めての時は自分も周囲もびっくりという感じだったけど、２、３回目は自分より周りのショックの方が大きくて。僕が元気に強く戻ることで、どれほどの人が喜んでくれるのか、１度目で分かった。そのためにリハビリを頑張った」

選手生命は終わり？　見返してやろう

　″深井の選手生命は終わりだ″。手術を繰り返し、心ない声も届いた。
　「そういう思いは僕になかったが、友達を通して『大丈夫なの？』という声や、SNSでも目にした。見返してやろうと思って。前十字靭帯断裂は１回でもかなりショックなケガ。何度も乗り越えて自分が活躍することで、そういう人たちに少しでも元気を与えられる存在になっていけたら、と思っている。

チームが勝つことを第一に　

　雑音をはね返し、同じくケガからの復帰を目指す人の希望になった。でもまたケガをしたら…。深いは「そのときはそのときだ」と割り切っている。その境地とは。
　「チームが勝つことを第一にプレーしているということ。チームのために体を張って、もし、それでケガをしようが、またリハビリを頑張るだけ。そのプレーでチームを救えるかもしれないから」

いろんな人の支えに恩返しを

　困難を乗り越えるたび、精神的にもたくましく、優しくなった。
「昔は自分だけいいプレーをしていればいいやというタイプだったが、今はサポーターや家族、友達、チーム、いろんな人の支えを感じている。恩返しのためだけに今はプレーしている。『ケガをしていなければもっとレベルアップできたかもしれない。そうだったらどうなっていたのだろう』と、たまに考える。でも今もサッカーを楽しめている。去年も大舞台で元気な姿を見せられた。ケガに後悔していない」

「不屈の男」は恥ずかしい

　サポーターは深井を「不屈の男」と呼ぶ。
　「恥ずかしい感じはありますよね。そんなに強くないぞ。と。でもサッカーが好きなので復活するしかない。みんなそう、その経験がたまたま自分だっただけ。みんな乗り越えられると思う」

厳しいのは一人じゃない

　公式戦再開はいまだ見えず。新型コロナウイルスが世界中を苦しめている。何度もはい上がった深井の経験は、私たちに苦境を生き抜くヒントをくれる。
　「生きていく上でそういうことは起こりうるので、どう乗り越えるか。一人ではどうにもできない。厳しいのは一人じゃないと思ってほしい。自分だけ苦しんでいると思わず、みんんなで助け合いながら。時には人の力を借りることも大事。僕たちもどうなるか分からない毎日だが、やれることをやる。共に前を向いて頑張っていきましょう。
（２０２０年４月６日掲載）

■深井ヒストリー　深井は２０１３年に札幌U－１８からトップ昇格。その後、５年半のうちに左膝２度、右膝１度の前十字靭帯断裂を経験している。１度目はプロ１年目の１３年１１月に左膝。復帰して１カ月後、１４年８月には逆足の右膝前十字靭帯断裂と半月板損傷を負った。３度目は１７年４月、再び左膝を故障した。３度の大ケガを克服し、ペトロビッチ監督１年目の１８年は２８試合に先発出場。９０分間のフル出場は２試合にとどまったが、シーズンを完走。翌１９年は３３試合出場でフル出場は２０試合に大幅増。ケガのイメージを見事に払拭した。