険悪な空気が流れていた。練習前、普段は温厚な玉井が珍しく、怒っていた。視線の先にいた宮西が「ちょっと、記事にしてくださいよ。これが先輩に対する態度ですか？　めっちゃにらんでくる。朝からずっと」と、あきれ顔で訴えてきた。

　これはただ事ではないと思い、事情を聴いた。概要を整理すると、こうだ。２人は超人気少年漫画「ワンピース」を愛読しており、新刊を揃って購入した。現在、物語は最終章に突入している。伏線回収も進み、展開が気になるところ。一足早く読み終えた宮西がイヤホンをした状態で「もう読んだ？」と玉井に問いかけた。玉井は「まだ読んでいません」と返したが、宮西は聞き間違えたのか、喜々としてネタバレ解説を始めたという。

　玉井はすぐに読みたい衝動をこらえ、移動の機内でじっくり読もうと決めていたらしい。ささやかな楽しみを奪った宮西は悪びれることもなく「普通、買ったらすぐに読むじゃん。移動の時に読みたかったらしいけど、そんなの知らんやん」と涼しい顔だった。

　今回ばかりは、仲良しコンビの痴話ゲンカ―で片付けられない。漫画好きの記者は玉井に感情移入。怒って当然の案件で、謝罪を要求するなら協力したいとすら、思った。