【西川薫】甲子園切符をかけた〝エスコン決戦〟 円山、スタルヒンとの違和感に???
全国高校野球選手権南・北北海道大会の準決勝と決勝6試合が7月22日から25日までの4日間、プロ野球・日本ハムの新本拠地として23年3月に開業した北広島市のエスコンフィールド北海道で行われた。エスコン元年に行われた記念すべき大会で聞こえてきた関係者の声をまとめてみた。
メリットは、甲子園に近い球場感覚、涼しいグラウンド
グラウンド上の話題から。優勝から一夜明けた26日、北海・平川敦監督(52)は「決めるのは(高野連の)上なんで」と前置きをした上で、個人の意見として大会を振り返ってもらった。まずはメリット。「ベンチに入った時の風景は甲子園に近い。スタンドの感覚、感じが、屋根はある、ないはありますが、円山よりは甲子園に近いイメージや雰囲気が感じとれたので、その辺はエスコンのいいところかな」。さらに空調の効いた屋内でのプレーも選手の健康面を考えると良かったと言う。「やっぱり涼しいから、体調不良や熱中症、足をつる選手がいない。普通にできるので、試合をするにはいい」。
デメリットは、内野の芝生、グラウンドの硬さなど環境の違い
逆にデメリットはあったのか。「ちゃんと戦える、集中できる。でも、その上(甲子園)に行った時に、あの環境でやってたら無理だとは思います。あまりにも環境が違いすぎる。それは芝生もあればグラウンドの硬さもあるし光もあるし照明もあるんで、それはデメリット。子供たちからするとあそこでやれるのはいい。野球普及のことを考えたり野球界のことを考えたら、あそこでやるのはメリットかもしれないけど、その先を考えていったらデメリット(になる)とは思います」。26日から室内練習場で暖房を付けた状態でウエートトレーニングをするなど甲子園に向けた暑さ対策が始まった。
当初、プロ仕様の硬いマウンドに苦戦するのではないかとの声もあったが、実際にはどうだったか。白樺の西村昴浩投手(3年)は、準決勝のクラーク戦で最速を更新した。一方、士別翔雲は3投手で15四死球。元々制球力に不安はあったが準決勝敗退の大きな要因となった。また、北海の長内陽大投手(3年)も準決勝で先発登板したが2回3四球、1失点で降板。平川監督は「合う合わないがあるからね」と思いやった。
途中から会場が変わると「野球が変わっちゃう」
また、準決勝以降をエスコン開催の日程には苦言を呈した。「1つの大会が1つの会場で全部完結するんだったらいいと思いますけど、下2試合(1、2回戦)と上2試合(準決、決勝)で変えるのは、全然野球が変わっちゃいます」。試合後、決勝を戦った北海道栄の糸瀬直輝監督(48)が次のように話していたそう。北海道栄は一回1死三塁からスクイズを敢行。しかし芝生部分で急失速、北海の捕手が捕球し三走は本塁憤死。「前に転がしたら(打球の勢いが)死ぬから、確率を考えた時にトスクイズにした」。実際にはうまくいかなかったが、平川監督も「野球自体もちょっと変わっちゃうんで、そこは…」と言うに留めた。すでに出場校に道高野連からアンケートが送付され検証作業が始まったようだ。
高校生以下も有料、バックネット裏は3000円
観客についてはどうだったか。7月24日の南大会準決勝13,877人が最大で4日間平均では約11,000人。道高野連が大会前に想定していた数字に近い。
2021年から札幌円山、旭川スタルヒンで行われる道大会の入場料を500円から700円に引き上げたが、高校生以下の無料は維持された。しかし、エスコンでは全校応援などの応援部隊と少年野球チームの招待などを除き高校生以下も有料となった。1階内野席は全て指定席で一番高いバックネット裏は3000円。昨夏の甲子園バックネット裏の4200円には及ばないが、高校野球地方大会としては破格の値段設定だったが半分以上が埋まっていた。
当初は、球場使用料は無料の触れ込みだったが、実際は駐車場のスタッフや場内受け付けなどで費用がかさんだ。道高野連の主な財源は大会の入場料で、コロナ禍の無観客試合で収入が減少。21年にはベンチの消毒などにかかる費用をクラウドファンディングで調達するなど苦しい台所事情があるのだろうが、少~し高すぎないだろうか。
応援席は2階席でも「声が聞こえてきて力になった」
記者が気になったのは、一番近くで見たいはずの保護者や同級生がなぜ2階席だったのか-。日本ハムの私設応援団は3階席。それに比べるとグラウンドに近いが、駒大苫小牧-北海の準決勝で三塁側カメラマン席に入った時に納得した。室内のため2階席からでもものすごい大ボリュームのブラスバンドがグラウンドに響き渡るのだ。エスコンのベンチ最前列には天井がないため、旭川明成の千葉広規監督(46)は「スタルヒンでは聞こえない応援の声が聞こえてきて力になった」と話していた。
また札幌円山や旭川スタルヒンでは、会場入りや試合終了後の出待ちなど、球児と保護者や支えてくれた人々との交流風景が風物詩だった。しかし、関係者入り口にバスで乗り付け再び同じ所から出ていくため、試合後の余韻を楽しむことができないのは残念だった。
表彰式でサウナブースから手を振る上半身裸の男
特に違和感を覚えたのは、7月22日の北大会準決勝第2試合、クラーク-白樺戦の終盤だ。試合はタイブレークの熱戦で17時過ぎに決着したが、その直前あたりからスタジアムツアーの団体客がバックネット裏から地下に降りていく姿が何度も見られた。試合終了後、地下では勝ったチームと負けたチームの取材が設定されていたが、涙に暮れる白樺の選手の目の前を「こちらでーす」と通り過ぎていったり、25日の南大会表彰式が行われている真っ最中に左翼席後方のタワー11サウナブースから上半身裸の複数の男性がグラウンドに向かって大きく手を振る光景が見え、なんだか一気に興ざめした。
運営側は全てが初めての中だったが、大きなトラブルもなく終了した印象だ。一番大変そうだったのは、旭川スルタルヒンや札幌円山と違い、とにかく動線が長いこと。ある先生に聞くと「1日2万歩」。歩幅にもよるが、15キロ相当に及ぶ。ぶつぶつ心の中で文句を言いながら移動していた私としては全く頭が下がる思いだ。
秋は札幌ドーム開催
秋季全道大会は日が暮れるのが早いため札幌ドームに舞台を移す。来年の南・北北海道大会に関して、すでに球団側から水面下でオファーがあるそう。実際には24年7月23日にプロ野球のオールスター戦が予定されており日程調整に困難を擁するため、現時点での開催は未定だ。
「野球やるなら太陽の下が一番でしょ」
元々北海道が南北分離開催になった経緯は、学校数の多さと広大な広さを移動するのが困難だからと聞いている。南北共にエスコンで行われるとなると、その前提が根底から覆され1枠になってしまうのではと余計な心配事も浮かんでくる。個人的には以前のように南北2球場体制で、甲子園切符を巡る戦いを最後まで繰り広げてほしいと切に願っている。野球やるなら太陽の下が一番でしょ。