【アーカイブ・2020年連載企画】逆境を乗り越えよう⑥ DEEN池森秀一 夢をかないたいと思い続けた
「このまま君だけを~」…ヒット曲連発も恐怖と戸惑いの日々
「このまま君だけを奪い去りたい」「瞳そらさないで」。大ヒット曲を次々と世に送り出してきたロックバンド「DEEN」。音楽業界が隆盛を極めた1990年代にデビューし、今もなお活躍を続ける。猛スピードでヒットチャートを駆け抜けるDEENにあって、ボーカルの池森秀一(50、北海道岩内町出身)は常に自らが置かれた状況に恐怖と戸惑いを感じていたという。特別企画「逆境を乗り越えよう」の第6回は一世を風靡(ふうび)した道産子ボーカリスト。(聞き手・神馬崇司)
(本連載企画は2020年に掲載されたものです)
「明日からDEENだ」
18歳で岩内町を飛び出した。セミプロとして「ススキノ」で日々、美声を響かせていた池森。デビューの機会は突然、訪れた。知人を介して歌声を聴いた敏腕プロデューサーから声が掛かった。上京し、何も聞かされないまま、ある曲を歌わされた。DEENのデビュー曲であり、ミリオンヒットを記録した「このまま君だけを奪い去りたい」だった。
「曲は決まっていた。あとは誰に歌わせようかと。その中の一人がボクだった。そしていきなり『明日からDEENだ』と。曲と詩のイメージにボクの声がぴったりだったとのことでした」
突然のデビュー「鈍行が新幹線に」
DEENは群雄割拠の音楽業界でいきなりトップ集団に加わった。リリースする曲が次々と大ヒット。23歳だった池森は恐怖と戸惑いを覚えた。
「ボクは鈍行列車に乗っていた。急行どころか新幹線の勢いでDEENが走り出した。どうやってDEENに追いつこうか。そればかりを考えていた。デビューから約2年して始めて生のステージに立った。歌い出すと会場がどよめいた。自分の声、演奏が聞こえなくなった。緊張とプレッシャー。明らかに自分のキャパを超えていた」
試行錯誤の連続・・・
それでもファンは待っていてくれない。
「オリジナル曲でお客さんを喜ばせるプロセスをアマチュア時代に経験していない。メンバーともデビューとともに初めまして。すべてが手探りでした。作品作りとコンサートを繰り返し、何とかDEENに追いつこうとやってきた。何事も経験でしか埋めることができない。試行錯誤の連続でした」
好きなことを突き詰めていった結果
ただ、努力を続けたという実感はないという。そこに苦境を乗り越えるヒントが隠されている。
「好きなこと、やりたいことを突き詰めていった結果。夢や目標に向かっている人間は先々のビジョンしか見ていない。自分は99%が運の人間。出会いに恵まれました。でも、とにかく夢をかなえたいと思い続けた。そういう気持ちが良いものを引き寄せることもある。そもそも人生に楽なことはない。そう思えれば、乗り越えられないことなんてない」
辛抱して、その思いをシェアできれば
今、世界中が新型コロナウイルスの大流行という未曾有の事態に直面している。
「人類初めての経験。不要不急の外出を控えたり、事態を軽んじないことは大前提。でも長く続くことじゃないと信じ、みんなで辛抱していきたい。そういう思いをシェアできれば、少しでも心が豊かになる」
■池森 秀一(いけもり・しゅういち) 1969年(昭和44年)12月20日、岩内町生まれ。93年にキーボードの山根公路らとDEENでデビュー。これまでシングル47枚、コンセプチュアルマキシシングル4枚、アルバム32枚、映像作品27枚をリリース。CD総セールスは1500万枚超。多くのアーティストをプロデュースし、作詞提供も行う。現在は山根と2人で活動。
(2020年4月20日掲載)