【北海40度目の夏・驚異の粘りを探る】①明豊戦九回裏2死からの2点差逆転劇 突破口を切り開いた1番・片岡誠亮中堅手(2年)
2023年夏の甲子園に全国最多40度目の出場を果たした北海は、1回戦の明豊(大分)、2回戦の浜松開誠館(静岡)と2試合連続の劇的サヨナラ勝利で7年ぶりの16強入りを果たした。驚異の粘りはどこから生まれてきたのか。当時の記憶をたどりながら北海高校野球部の伝統と実力に迫る。トップバッターは明豊戦の九回裏2死走者なしから出塁を果たし逆転劇につなげた1番・片岡誠亮中堅手(2年)。
秋の全道決勝、最終打者で空振り三振
まるでデジャビュの様だった。2点ビハインドの九回、2者連続で凡退し後がない状態。「どうにかして自分が出ないと」。打席に向かう片岡の脳裏に昨秋の出来事がよみがえった。秋季全道大会決勝戦、クラークに延長十回表に2点の勝ち越しを許し、その裏の攻撃は2死走者なしで片岡。カウント1-2から空振り三振で終わり、春の選抜甲子園出場の夢はほぼなくなった。「『また最後か』って、弱気になる部分もちょっとあった」。一瞬トラウマに囚われそうになったが、秋とは違う成長した姿を甲子園では見せた。
試合前日の相手投手の特徴分析が生きた
情報収集が役に立った。七回途中からマウンドに上がった明豊2番手の森山塁投手から、前の打席で左前に安打を放っており、これが2度目の対戦。第2、第3打席で安打をマークしており、この試合チームで一番当たっていた。試合前日、森山投手の特徴を動画などで分析し、「ボールが高めに浮く」と傾向を確認。さらに八回には四死球2個と森山投手は制球に苦しんでいた。
「高めはつぶして絶対に振らない」
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片岡の前の2人はその高めの直球を打ち取られていた。ベンチからは目線を下にとジェスチャーが出ており「打ちたい気持ちが強いと高めに手が出がち。高めはつぶして絶対に振らない」と心に言い聞かせ、打席に立った。
カウント3-1から5球目をしっかり見極めた
1球目は真ん中外側のボール。そこから情報通りに高めにボールが2球続きカウント3-0。1球ストライクの後、大きく高めに外れるボールをしっかり見送り出塁した。そして後続の2連打で生還。さらに北海打線は2四死球を選び満塁にし、5番・幌村魅影遊撃手(2年)の押し出し四球で同点。流れを完全に引き寄せ延長タイブレークのサヨナラ勝ちにつなげた。
2回戦・浜松開誠館戦でも逆転勝利
7年ぶりの甲子園勝利。初戦の緊張から解き放たれると、片岡は2回戦の浜松開誠館戦でも勝利に貢献した。0-1で迎えた七回。先頭の8番・岡田彗斗投手(3年)の場面で、明豊戦翌日の練習で右手中指を骨折してベンチスタートだった同級生の幌村魅影内野手(2年)が代打で登場。患部にテーピングを巻きながら執念の左前打で出塁し、続く9番・大石広那捕手(2年)が1-2から投手正面ににスリーバント。ここで相手投手の二塁送球が逸れセーフ。記録は犠打野選となり無死一、二塁。北海はこの試合初めて無死で得点圏に走者を進めた。
「監督から終盤勝負って言われていたので焦りはなかった」
片岡はこの試合3打数無安打だったが、明豊戦の劇的サヨナラ勝利もあり「平川監督から終盤勝負って言われていたので焦りはなかった」と冷静に打席に入った。1球目のサインは再び犠打。三塁線にうまく転がすと動揺する相手投手が捕球ミスし無死満塁。相手のミスを突く、たたみかける攻撃で好機を広げた。その後、1死満塁から3番・熊谷陽輝投手(3年)の三ゴロの間に欲しかった1点を奪い、試合を振り出しに戻した。
3得点全て犠打をからめるそつのない攻撃
八回に再び1点を勝ち越されたが、その裏、打線が食らいついてすぐに同点。こうなったら流れは北海のもの。九回1死二塁から5番・関辰之助三塁手(3年)の遊撃への打球がグラブを弾き、3-2で2試合連続のサヨナラ勝ち。片岡の犠打も含め、3得点全てで犠打が得点にからむ北海らしさの詰まった逆転劇で16強に駒を進めた。
1大会に1つあるかないかのプレーの準備も怠らず
3回戦の神村学園戦は4-10で敗れたが、最後まで食らいついた。まずは守備でリズムを作った。一回表1死一、二塁。相手主砲の打球は中堅・片岡の頭上を襲う大飛球。これを背走しながら後ろ向きで見事に捕球した。「練習で背走の練習っていうのも入れてて、それができた」。1大会に1つあるかないかのプレーへの準備を怠らない日頃の成果。こんな姿勢も守備の北海らしさを表していた。
三度奇跡は起こらず、甲子園ラストバッターに
初回に4点を奪われたが、その裏、先頭の片岡が遊ゴロを快足で内野安打に。犠打で二進後、3番・熊谷投手の右越え二塁打で生還。二回にも1点を返し押せ押せムードを作り出した。中盤に大量点を奪われ4-10で九回裏2死二塁。打席には再び片岡が立ったが、最後は遊飛でゲームセット。昨秋に続き、甲子園でも再びラストバッターの結果に終わったものの、試合後は三塁側北海のアルプススタンドから大きな拍手が送られた。
甲子園15打席で7出塁「自分の持ち味を出せて良かった」
片岡は甲子園3試合15打席で7出塁。塁間走はチーム一の俊足を誇る。「ゴロならセーフになる可能性が高いので、自分は試合でもバッティング練習でもフライは打たないって心がけています。自分の持ち味というか、出塁率が自分の特長でもあると思う。それを出せて良かった」。甲子園でのフライアウトは神村学園戦の最終打席のみ。2年生ながら、1番打者の役割をしっかりと果たしてみせた。
「高校ナンバーワンクラスのピッチャーと対戦したい」
来春の選抜甲子園をかけた秋の札幌支部大会は9月27日に開幕する。順調に勝ち進めば代表決定戦翌日には国体出場のため鹿児島県へ出発する。札幌ドームで初開催される全道大会も大事だが、まずは国体で3年生と一緒に戦う最後の戦いに照準を絞る。「国体に出るってことは、もう人生でも一度しかないようなすごいこと。仙台育英と対戦してみたい。湯田投手とか高橋投手とか、高校ナンバーワンクラスのピッチャーがどういうピッチャーなのか。ちょっと対戦してみたい」。新チームでも切り込み隊長を務める片岡が、南国・鹿児島でも暴れまくる。