星槎道都大153キロ左腕・滝田一希が亡き母に捧げる涙の広島3位指名【ドラフト会議】
黒松内町出身 侍ジャパン大学代表にも選出
プロ野球ドラフト会議が10月26日に東京都内で行われ、札幌学生野球連盟1部の星槎道都大・滝田一希投手(21)が広島から3位で指名を受けた。黒松内町出身で、寿都高校では全道大会出場など目立った成績はなかったが、元巨人で同大の二宮至監督(70)に将来性を見いだされ進学。2022年には最速150キロをマークして、侍ジャパン大学代表合宿に参加するなど才能を開花させた。昨年5月に他界するまで支え続けてくれた母・美智子さんや家族への感謝を胸に、プロの世界に身を投じる。
母は昨年5月に他界
お母さん、見てるかい? 自らの名前が呼ばれた瞬間、滝田は驚いた表情の後、深い安堵(あんど)のため息をついた。そして、亡き母への思いがこみ上げ、涙が頰を伝ってあふれ出た。「本当に、こんなに早くに呼ばれると思っていなかったので、すごく嬉しい気持ちでいっぱいです。呼ばれた瞬間、(母から)おめでとうって聞こえるぐらい、自分の心に響きました」と目を真っ赤にはらして、母への思いを紡いだ。
遺影に見守れながら会見
会見には形見のネックレスをポケットにそっとしまい込み、遺影に見守られながら臨んだ。6人兄弟。6歳のころから、女手一つで朝早くから深夜まで働いて育ててくれた。「まだスタートラインに立っただけで、ここから自分がやるしかない。母には活躍した時に感謝を伝えたいですし、今日はここまで成長させてくれてありがとうっていうしか言えないです」。携帯電話には祝福のメッセージが150件以上。「今日中に返せればいいですけど」とぽつり。優しい性格がにじみ出ていた。
夏に左でん部負傷し 秋季リーグ前半は登板無し
一時は本当に指名されるのか、弱気になった。夏場に左臀部(でんぶ)を負傷して、秋のリーグ戦前半は登板なし。復活登板は9月20日の札幌大戦。先発して7回⅔を6安打2失点(自責1)。NPB6球団のスカウトが見守る中、最速150キロをマークしていたが、「10月に入ってから、毎日ずっと不安でした。けがもあって自信が持てなくて、そこが一番の不安要素でした」。指名された今、その不安は杞憂(きゆう)に終わった。
広島との不思議な縁 「球団で最後を終えられるぐらい頑張りたい」
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広島とは不思議と縁がある。大学がある北広島市は、広島県からの入植者が開拓した町。球団のイメージは「熱いチーム。クライマックスシリーズも友達の家で見てました。ああいう熱いチームでできるのは本当にうれしい。必要として指名していただいてるんで、球団で最後を終えられるぐらい頑張りたい。口だけじゃダメ。自分が努力すれば160キロは届く位置だと思う。そこは一番目指したいところ」と、大台突破に意欲を見せる。
二宮監督が広島出身
さらに二宮監督が広島出身。母を亡くし、野球をやめそうになるぐらいの大きな喪失感に襲われていた時、監督から「プロになって立派な墓を建てろ」と励ましてもらった。滝田は「あの言葉がなかったら、野球を諦めていたと思いますし、ここまで来られなかった。感謝しています。広島は監督さんの地元でもある。監督さんの地元でまた活躍して、良い報告をしたい」と恩返しを誓う。
二宮監督は「当時、(自分が)一番行きたかったチームに、教え子が行くというのは縁を感じますね。ここまでになるとは思いませんでしたけど、野球に取り組む姿勢が良かった。自分の経験上、良い選手になるじゃないかと思って誘ったんです。本人の一番の努力。うまく導いたかは分かりませんけど、本人が苦しい時を乗り越えてやってくれたから今がある」と目を細めた。
大学野球部主務のOGが今春から広島職員で在籍
また、広島には心強い味方がいる。昨秋まで同大野球部の主務を務めていた阿部里央奈さんが、今春から球団職員として働いている。滝田も入学時からずっと、世話になってきた。「辛い時にはたぶん支えてくれますし、広島つながりで縁がある、うれしいですね」。
「一年でも長く1軍で活躍できる姿を見せられれば」
星槎道都大で一番得たモノは、フィジカルや剛速球ではなくメンタル面。「弱々しい自分をここまで大きく育ててくれた」。厳しい態度は期待の裏返し。鍛えてくれた監督、コーチ、先輩の支えに感謝する。「4年間やってきたことでスタートラインに立てている。ゼロからになりますけど、自分の努力次第で、成績も変わりますし、一年でも長く1軍で活躍できる姿を見せられれば。1から100まで全部、鍛え直します」。田舎の公立校からでもプロで活躍できることを証明する。滝田のサクセスストーリーは、ここから始まる。