《鶴岡慎也のツルのひと声》特別編 アイツの〇〇はスゴかった 名捕手が語るあのピッチャー、あの魔球
記憶に刻まれた豪腕 ウイニングショット
穏やかな語り口と鋭い観察眼で、評論家としても好評の鶴岡さん。現役時代は日本ハムで通算15年、ソフトバンクで4シーズン活躍した。コーチ経験もあり、今春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)ではブルペン捕手として侍ジャパンに帯同。世界一奪取に大きく貢献した。多くの名投手が投げ込んできた白球をミットに収めてきた扇の要。印象に残る投手、ウイニングショットを振り返った。
気持ちの強さは抜群 投手コーチに就任した武田久
プロといっても、やはりメンタル。強じんな精神力がモノを言う。そういう意味では、この人の右に出る者はいない。日本ハムの投手コーチに就任した武田久さん。あの小柄な体でセットアッパー、クローザーを長く務め、タフなシーンでマウンドに立ち続けた。当然、ボールは一級品でしたが、群を抜くのが気持ちの強さです。
打たれた時の一言に表れる潔さ
年齢は私の3つ上ですが、ドラフト同期で互いに社会人上がり。信頼関係が構築されていたという大前提があったにせよ、たまに痛打されると、決まって放つフレーズがあった。「打たれたのはリードしているおまえの責任」。なかなか言えないですよね(笑)。でも、抑えても喜びすぎず、打たれても落ち込みすぎない。シビアな場面での登板が続くポジション。これこそが大事。気持ちの浮き沈みがあっては務まらない役回り。私もたまに言い返しましたけどね。「あんなところで、あんな逆球を投げたら、打たれますよ」って(笑)
「さすがにビビった」清原への死球
この記事は有料会員限定です。
登録すると続きをお読みいただけます。
打者の内角にも臆さず投げ込みました。たとえ当ててしまっても、次打席でまた厳しいコースを突く。オリックス時代の清原さんに当てた時は、さすがにビビりましたけどね(笑)。でも相手もプロ。逃げたら負け。私も気丈に内角のサインを出した。それが信頼にもつながる。だから、同じシュートピッチャーの玉井にはよく言いました。「逃げるなよ」と。
唯一無二の角度 強烈だったサファテのストレート
ストレートに限ると、ソフトバンク時代のサファテが強烈でした。190センチを超える身長で、体を傾けながら、とにかく上から投げ下ろす。150キロを超える直球が降ってくる感覚。唯一無二の角度で、ミートポイントの接点がない。バットに当てることさえ難しい。サインもほとんどがストレート。9割ぐらいかな。本人も日本人のスイングを研究し、どれだけ上からリリースできるかを常に考えていた。ダルビッシュや大谷の直球は下から突き上げるような軌道。サファテは逆。見たことのない角度でした。
怖かった千賀のフォーク、ケッペルのツーシーム
変化球なら、やっぱり千賀のフォーク。落ち幅は昔からスゴかった。今でこそ安定感がありますが、僕が受けていた当時はまだまだ成長段階。スライダー気味に落ちたり、まったく落ちなかったり。そりゃあ、怖かったですね。ランナーが三塁にいる時は必死で止めにいきました。
怖さでいうなら、日本ハムに(2010年~13年まで)在籍していたケッペルも。ツーシームが特徴的で、とにかく動く。今でこそツーシームを投げる投手は多いですが、当時は少なかった。よく(ミットを着けていた左手の)親指を突き指しました。
まるで精密機械 「楽だった」武田勝のリード
コントロールの良い投手は武田勝さん。一言で表現するなら、楽でした。とにかく構えたところに来る。チェンジアップはしっかりとストライクゾーンからボールへ。右打者に投げるクロスファイア気味の直球は絶対にコントロールミスしなかった。変化球が多いだけに、130キロ台でも詰まらせることができる。配球のしがいがあった。
刺激を受けたダルビッシュの向上心
そしてダルビッシュ。彼は欠かせませんね。私が知る投手の中で、最も向上心を秘めたプレーヤーです。「現状維持は退化」と常々、口にしていました。私自身、その言葉にドキっとさせられ、いつも刺激を受けてきました。
腕や手先の器用さはピカイチ
技術面でも目を見張るものばかり。中でも腕や手先の器用さはピカイチです。試合の中で、腕の角度を変えたり、ボールの曲がりに変化をつけたり。相手打者の反応や自分の状態を瞬時に見極め、その時のベストパフォーマンスを披露する。調子が悪いことはあっても、必ず試合をつくることができた。
球持ちの良さも見事でした。なかなかボールを離さない。離した瞬間にミットに収まる感覚。打者が嫌がるはずです。それでいて、ストレートもスライダーもスプリットも同じ軌道。当然、バットが出てしまう。
すべては財産 名投手たちとの共闘を述懐
多くの素晴らしい投手とバッテリーを組ませてもらった。すべて私の財産です。