【道スポ紙面で振り返る「赤黒のシンジ」座談会】④J2琉球への移籍と引退発表まで
歴代担当記者3人の座談会最終回
12月3日の浦和戦を最後に現役を引退する北海道コンサドーレ札幌のMF小野伸二(44)の特集『道スポ紙面で振り返る「赤黒のシンジ」座談会』。最終回は琉球への移籍、当時の札幌ラストマッチ浦和戦、そして札幌へと戻ってきた2021年から引退発表に至るまでをテーマに、月刊コンサドーレ松木純編集長、道新スポーツデジタルの中村真大デスク、現在の担当・工藤友揮記者が紙面で振り返った。(以下、敬称略)
<2019年8月5日付22面>
松木「2019年の夏に琉球移籍という衝撃的なニュースが飛び込んできた。小野がシーズン途中に完全移籍でいなくなる、と。見出しでも『さらば稀代の天才』って打っているけど、本当にこのときは残念だなと思った」
工藤「道内メディアはこの日に一斉に報じたんですけど、この何日か前に一部で報じられて、ネット上ではかなり話題になっていたんですよね。嘘なのか本当なのか分からない状況だったんですけど、この報道が出て、本当だったんだなって。この年はここまでリーグ戦の出場が無かったんですけど、札幌で引退すると思っていたので、この時はすごく寂しかったです」
中村「18年からペトロヴィッチ監督に代わって、その年はリーグ戦出場が7試合。やっぱり試合に出たい、リーグ戦に出てチームに貢献したい、という気持ちが強かったんだろうね。年齢的にもこの時が39歳。選手としてやっていくラストチャンスを求めていたのかもしれない。砂さん(砂川誠コーチ)も現役最後の15年は途中からJ2岐阜に行って最後を迎えた。あの時の砂さんも、もう一度、最後に選手として試合に出たいと言っていた。小野もその砂さんの姿を見ていたし、同じ気持ちになったのではないかなと今になって思う」
工藤「当時のシーズン最終戦後の宮の沢では、功労者ということもあって砂川選手が胴上げをされてましたね」
中村「うん、きれいに宙に舞ってた。その後、小野が最後に『ボール蹴ろうよ』と砂さんを誘って、2人でボールを蹴り合っていた。一緒にサッカースクールを立ち上げたり仲の良い2人だったから、感動的な瞬間だったなぁ」
松木「札幌がJ1に上がっ17年は、小野も久々にJ1のピッチに立った」
<2017年4月3日付19面>
松木「清水時代以来1709日ぶりにJ1ピッチは第5節の甲府戦。開幕戦からいけなかったという悔しさもあったと思うけど、それでも試合に出ると存在感を感じた。残り9分とアディショナルタイムだけでも」
工藤「この試合は深井選手が前半14分に負傷退場して、2点のビハインドがあった中での出場。小野選手はコンディションもそこまで上がっていない中での出場でしたし、試合途中からの起爆剤にはなり得ませんでした」
中村「砂さんから背番号8を受け継いだ深井。砂さんの後は一瞬、小野が付けるかなと思ったけど、小野は『これからの若い人が付けて』と深井に譲ったらしい。だから、このときもっとJ1での深井を見ておきたかった」
松木「この年の小野は、リーグ戦は全て途中からで16試合に出場。攻撃のオプションとして試合に変化をつけるジョーカー的な役割という感じだった」
工藤「福森のフリーキック2発で同点に持ち込んだアウェー大宮戦とか、ジェイのゴールをアシストしたホーム浦和戦なんかでも途中から出場してうまく攻撃にアクセントを付けてくれていた記憶があります」
中村「元イングランド代表FWのジェイも小野をリスペクトしてたよね。ヨーロッパでの活躍も知ってるからね。小野のエンゼルパスで、長身のジェイの頭に合わせるとか、良いオプションだなと思って見ていた」
松木「それでも出場機会が得られなければ移籍も考えるよ」
<2019年8月11日付3面>
松木「小野がいなくなるというのは札幌にとっても非常に寂しい出来事だった」
中村「当時は戻って来るなんて分からなかったですしね。今でもそうですけど、練習で神業的なボールコントロールを披露したりしていましたし、他の選手も小野のプレーを参考にしていた。そういう選手がいなくなるというのは、チーム全体でも相当なショックだったんじゃないかなと。精神的な支柱がいなくなるというね」
松木「この時点での札幌ラストゲームも、ホームでの浦和戦だった。本当に巡り合わせがすごいね」
中村「この試合にはベンチ入りしましたが、1-1でゲームが進んだということもあって展開的に難しくて。結局、試合に出場することができなかった」
工藤「まだシーズン半ばの8月でしたしね。紙面を見ると、ミシャも『今日の私は正しくなかったかもしれない。彼を途中で入れられなかったことは、悔いが残る』とコメントしています」
中村「そう考えると、今回もちょっと恐いなぁ。大丈夫かなぁ」
工藤「そこはさすがに大丈夫じゃないですか。 もう今季は残留も決めて、ほぼ順位も…、10位から14位で決まりますから」
松木「今回は引退だからね。今度こそ試合に出してほしいなと監督に切に願います」
中村「相手がミシャの古巣の浦和だからなぁ。何にせよ12月3日は、どういう使われ方をするのか。先発からなのか、途中からなのか…。気になるところです」
<2021年1月17日付2面>
松木「21年に小野が戻ってきた。チームにとっても非常にうれしい出来事だっただろうな」
中村「戻って来てくれたということは、本当に札幌のことが好きで、思い入れの一番強いチームだったということですよね。このニュースを聞いたときは単純にうれしかったです」
工藤「しかも発表されたのが1月1日でしたからね。サポーターにとっては最高のお年玉になりました」
<2021年6月10日付2面>
松木「復帰初年度の天皇杯3回戦ソニー仙台戦で、復帰後初ゴールを見事な直接FKで決めてくれた」
工藤「この時はまだ担当記者ではなかったので、ゴール裏で観戦していて、生で目撃することができました。壁の上を越えてゴールネットに吸い込まれて。相手GKが一歩も動けないすばらしいシュートでした」
中村「札幌に来てからは初めての直接FKでのゴール。現時点ではこれが現役生活最後のゴールになっているね」
工藤「是非ラストゲームで小野のゴール集に新たな1ページが刻まれることに期待したいです」
中村「そこはみんな協力してくれるでしょう。『自分が打てる!』って思っても、横に小野がいたら『シンジさん、どうぞ』ってなりそう。逆にそっちの方が力が入りそうだけどね。でも、小野も優しいから。お膳立てされてもシュート打つフリしてラストパス出しそう。いずれにせよ、神戸のイニエスタの時のように、すばらしいフィナーレになることを祈ってます」
松木「今回、道スポの紙面で小野の足跡を振り返ってきて、改めて偉大なプレーヤーであるということを再認識したよ。この世界的なプレーヤーが現役最後のチームに札幌を選んでくれたことには本当に感謝しかない。ラストゲームがすばらしいものとなることを心から願って、この座談会を終えることとしよう」
※紙面で展開することはできませんでしたが、今年9月27日の引退発表は道新スポーツデジタルで報じました。その後、編集部では4つの企画に取り組みました。ぜひ、「あわせて読みたい」から拝読していただけると幸いです。