【松本剛 独白】エスコン元年を振り返る㊤ 大型連敗にけが 苦しい時に思い出した鎌ケ谷での下積み時代
チームも個人も苦境を味わった2023年シーズン
昨季、首位打者に輝いた日本ハムの松本剛外野手(30)にとって、プロ12年目の2023年シーズンは決して順風満帆とはいえなかった。両アキレス腱(けん)の不安を抱え、もどかしさを感じる日々。チームは夏場に13連敗を喫するなど、2年連続の最下位に沈んだ。22年オフから選手会長を務め、名実ともにファイターズの顔となった男は、どんな思いで戦ってきたのかーー。道新スポーツデジタルの取材に応じ、当時の胸中を明かした。
今だから話せる 泥沼の13連敗
シーズン中、どこか険しかった表情は、オフに入って柔和になったように感じる。10月5日の最終戦からおよそ2カ月の月日がたち、「苦しい時間の方が長かったですけど、今思えばいい経験。やっている時はしんどかったですけどね…」と笑って振り返られるようになった。4位に浮上し、Aクラスが見えた7月上旬。チームは球団ワーストにあと「1」と迫る13連敗を喫し、21日間、白星から遠ざかった。
「勝てなかったし、自分も良い活躍ができなかった。そこが一番しんどかった。勝てないのと、自分が思い通りの結果を残せていなかったのが苦しかったです。連敗中はホントしんどかった。どうしたらいいのか、分からない。みんな勝ちたいと思ってやっていましたし、何とかしたいと思っている中で、どうしようもできない。あの時期は僕だけじゃなくてみんなきつかったと思います」
満身創痍で駆け抜けたシーズン
ロッカールームに漂う閉塞(へいそく)感。チームを引っ張らないといけない自身も、5月に両アキレス腱を痛め、コンディション万全とは言い切れなかった。
「常に治療したり、注射を打ったり、1年間を通してずっとやっていました。でも、これといっていい突破口がなかったのが正直なところです。厳しかったけれど、なんか試合には絶対に出たいというのがあった。意地でも出たいとずっと思っていました。(首脳陣には)気を使ってもらっていましたし、試合に出たら足が痛いとか関係ない。足を引っ張るようなら出る必要はない。自分の中で、葛藤がありました。出るんだったら100%で動けるのかって。自問自答じゃないですけど。でも、試合には出たい。けがを技術で補えるかどうかが自分の中でありました」
チームリーダーの責任 仲間を鼓舞し続けた1年
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手負いの状態ながら、チームリーダーとして動いた。ミスをして落ち込んでいる選手がいれば、積極的に声をかけた。エスコンフィールドでロッカーが近かった山田遥楓内野手(楽天に移籍)と奈良間大己内野手には、激励の意味を込めて「前に出ろ!」と、したためたボールを渡したこともあった。
「みんな落ち込むし、俺も落ち込む。そんな時に支え合えるのがチームスポーツならではだと思う。(清水)優心が(ミスをして2軍に)落ちる時も声かけしました。声をかけるというか、僕もしょっちゅう落とされていた人間だから気持ちが分かる。落ち方もいろいろ経験している。すごく気持ちが分かるなって。今考えると、そういう経験も生かされているのかなと思う。2軍時代が長かったから。(チーム内で)2軍暮らしが一番、長いくらい長い。でも、すごく良い経験だなと思います。ここまで何とかやってこられているから、そう思う瞬間があります」
胸に刻まれた不遇の時代 「悔しさを忘れちゃいけない」
2011年にドラフト2位で入団。6年目の17年に規定打席に初めて到達したものの、昨季タイトルを獲得するまで1軍と2軍を行ったり来たりした。だから、2軍行きを告げられた時のつらさは痛いほど分かる。
「何回も悔しい思いをさせてもらった。人間、その悔しさを忘れちゃいけないなって今でも思います。他の選手がファームに落ちる時は、自分も(心に)刺さる。ぬるいことやってられないな。ロッカーで荷物をまとめたりしている姿を見ると、自分を思い出すじゃないけど…。夜ご飯を食べに行くって約束していたのに、落とされたなとか実際にある。次の大阪でご飯に行こうと思っていたのにな…とかあるわけですよ。そういうのを思うと、1軍にいないと話にならない。土俵にも立てないから。毎回、気を引き締めますね」
精神的面の成長を実感 常に頭にある鎌ケ谷での日々
逆境を乗り越えた男は驚くほど強い。思い通りにいかなかったシーズン中、周囲に弱音は吐くことはほとんどなかった。
「愚痴るとかはあまりないかな。原因もはっきりしていたし、うまくいかないのがストレスだっただけで。それをどうしたらいいのか考えることはあったし、『やってらんね~』となるけれど、それは一時の感情。またあした試合があるし。その時、思います。『くっそ、やってらんね~』と思った時に、鎌ケ谷でやっていた時のことを思い出す。それよりつらいものはない。だって1軍の舞台で試合に出られているんだもんって」
来季への思いは人一倍 「去年よりもやれそうな自信がある」
つらい時に思い出すのは、出場機会に恵まれなかった7、8、9年目。あの時と比べたら、1軍で試合に出られていることが幸せだと思えた。
「あの頃は地獄でした。2軍で結果を残しても、上がれない。1軍に上がっても、試合に出られない。守備でしか試合に出られなくて、打席をもらえないとか。代走でしか出られないとか。そういうのを経験させてもらったおかげで、『くっそー、打てない。むかつく』と思うけれど、悩みが1軍で打てない悩みだもんなって。そうやって思うと、成長したなって。それがまた去年と今年では違っているし、去年あれだけできたので、今年はできていない悔しさも出てくる。そこは今年1年、難しいところだった。でも、今年2割7分(リーグ5位の・276)で終わって、あっ、落ち着いたみたいな。前にも言ったけれど、去年よりも来年やれそうな自信がありますね」
苦悩のシーズンを終え、松本剛は来季に向けて確かな手応えをつかんでいた。それはいったいなぜなのか―。