夏季スポーツ
2024/01/05 05:00

【Re:START】前編 陸上十種競技の日本記録保持者・右代啓祐がパリ五輪に再照準「スポーツに悲壮感はいらない」

パリ五輪出場へラストスパートをかける右代啓祐(撮影・中村真大)

パリへ動いた心の葛藤

 日本が誇るキング・オブ・アスリートが残されたわずかな可能性を追い求めてラストスパートをかける。陸上界で「走る・跳ぶ・投げる」全てを体現する十種競技。日本記録保持者でロンドン、リオ五輪に出場した右代啓祐(37、国士舘クラブ)は今年開催のパリ五輪出場に照準を合わせた。2021年の東京五輪は惜しくも落選して一度は現役引退も考えたが、ある出会いをきっかけに再び前を向き、心の炎をたぎらせた。道新スポーツデジタルでは右代の特集を「Re:START」と題し、前後編で掲載。前編はどのようにして失意のどん底から前を向き、パリが見えてきたのか、心の葛藤に焦点を当てる。

東京五輪の落選から失意のどん底へ

 21年9月、東京五輪の落選からは2カ月ほど経っていたが、右代は現役続行するか否か、人生の選択に悩んでいた。第一人者が引退となれば一つの時代が終わる。並大抵の判断で決断はできない。落選した喪失感や悔しさが心の大部分を占め、さらにコロナ禍も重なったことで、「何をやっても集中できない。自分への苛立ちもあったし、燃え尽きではないけど、このままやめることもできない」という状態にあった。

栗原氏との出会い

 それは偶然だった。アスリートを支援する味の素の「ビクトリープロジェクト」ディレクターを務める栗原秀文氏(47)とあるイベントで再会した。これまでの五輪でサポートを受けていたこともあり、今後の進路について悩みを打ち明けたところ、「右代という選手はまだ力を出し切れてないよ。競技をやめるにしても、全てをやり切ってからでもいいんじゃない。まだやれることはたくさんある」と励まされた。

21年9月のイベントで栗原氏(左)と再会した右代

 

苦手種目を残したまま引退するのか

 まだ自分には伸びしろや可能性があるのか―。栗原氏の言葉で右代は再び自問自答した。思い起こせばずっと苦手な種目があった。それを少しでも克服していけば得点はまだ伸びるかもしれない。十種の中で投てきなどパワー系の種目は得意だったが、100、400、1500メートルといった走る種目ではいつも得点を落としていた。

「苦手種目を残したまま自分は引退していいのか。引退した後もまた同じようなことが日常生活で起きたら? 自分はそのまま諦めてしまうのか―」

これまでは走る種目で順位を落としてきた右代(提供写真)

 

魔法の言葉でポジティブ変換

 右代は未来を変えることを決意した。味の素のサポートを受けることになり、自身の「ビクトリープロジェクト」が誕生した。栗原氏からは改めて〝魔法の言葉〟をもらった。それまでは真面目な性格からネガティブになりがちだったメンタルが、どこまでもポジティブなものに変った瞬間だった。

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