《こぼれ球》〝ナイスガイ〟高木の早期復帰を祈る
目の前の光景にただただ、ぼう然となってしまった。福岡との開幕戦を翌日に控えた2月23日。実戦形式のトレーニング中に突然、選手たちの動きが止まり、ピッチ上が騒然となった。ゴール前で左膝を抱えてピッチに倒れ込んでいる選手がいたのだ。GKが着用するピンク色のビブスを身にまとっていたその選手が高木駿(34)であること、そして他選手との接触がなかったにもかかわらず、全く立ち上がることができず、決して軽いけがではないと理解するまで、そう時間はかからなかった。
キャンプ期間中、実戦形式の練習やトレーニングマッチで高木は常にGKの1番手としてプレーし、目前に迫った開幕戦でも先発出場が濃厚だっただけに、チームにとって、そしてもちろん高木自身にとってもショックの大きい出来事だったに違いない。
だが、そんな厳しい状況の中でも高木は決して自らのスタンスを崩すことはなかった。練習終了後、応急処置を終えて松葉づえを突きながら再びグラウンドに姿を現すと、サポーターへのサインや写真撮影といったファンサービスを通常通り行ったのだ。後日、チーム広報に聞いた話では、なんと自らサポーターに声をかけたそう。
昨年8月の札幌加入会見を思い出す。「サポーターと話すのもすごく好きで、ここのグラウンド(宮の沢)では毎日、ファンサービスできるのを聞いてうれしかったので、たくさん会いに来てもらいたい」と語っていた。だが、大けがを負った直後。ファンサービスを断っても仕方ない状況だ。それでもサポーターを大事にする姿勢を貫いた姿には尊敬の念を禁じ得ない。
昨年12月にはコンサドーレの道東ツアーに同行し、高木が各地を巡る様子を取材させてもらった。役場などのフォーマルな場ではきちんと社会人として振る舞う。一方、学校で子どもたちと触れ合った時や、セイコーマートで一日店長を務めた際には時折、おちゃめな姿も見せて周囲を笑顔にした。3日間に及ぶ取材を通じて、記者もその人柄にほれ込んでしまった。復帰までの道のりは長いものになると思うが、そんな〝ナイスガイ〟な高木の笑顔を再びピッチ上で見ることができる日が一日でも早く訪れることを心から願っている。