《元赤黒戦士の現在地・石川直樹前編》札幌アカデミーのダイレクター就任「人間性を教育できる組織に」
通算6シーズン札幌でプレー
かつて北海道コンサドーレ札幌で活躍した選手に現在の活動や、現役当時の逸話を語ってもらう『元赤黒戦士の現在地』。今回は2009年途中から10年、そして17年途中から20年までの2度、通算6シーズンにわたって札幌でプレーし、今季からコンサドーレのアカデミーグループを統括するダイレクターに就任した石川直樹さん(38)を紹介する。前編ではダイレクター業務への意気込みや、今後のアカデミーグループ運営のビジョンについて聞いた。(以下敬称略。前編ではアカデミーチーム所在地の地名が文中に複数登場するため、チーム名を「コンサドーレ」、チームの所在地をそれぞれの地名で記載する)
ダイレクターの業務とは
「アカデミーのトップとして遠征費の話し合いといった予算管理や、スタッフや選手が活動しやすい環境をどうつくるか、というマネジメントもします。現場での指導というより、プロを目指す組織として、1人でも多く(上に)上げていくために何ができるのか、そこにどうお金やエネルギーを使っていくか、ということを中心となって考えるのが主な仕事です」と、ダイレクターの業務内容を説明する。
20年の現役引退後、スペインでメンタルトレーナーの研修を受けたり、大阪体育大学院でスポーツ心理学を学ぶなど、選手のメンタルサポートについて知見を深めてきた。23年に古巣であるコンサドーレのアカデミーグループの札幌マネジメントチーフ兼旭川・釧路・室蘭チーフに就任した。
スタッフで復帰1年目 「ほとんど家にいなかった」
とにかく多忙な日。「ほとんど家にいないんじゃないか、というくらい、旭川、釧路、室蘭を回って、各エリアのスタッフとコミュニケーションを取り、抱えている課題を聞いた」という。U-15以下は札幌を含めて拠点が4つある。「そこからどう吸い上げて1つしかないU-18に集結させ、プロを育てるか」という全体像が捉えられたという。スタッフとして札幌に復帰した1年目として「ダイレクターをやる上でも、いい1年だった」と回顧する。
前任者の次は後任不在で不都合が…
アカデミーグループは22年限りで前任のダイレクターが退任。23年は後任を置かず、石川を含めた3人のチーフがそれぞれのセクションを担当した。各エリアが石川、U-12・15が青山剛(現サポートスタッフ)、U-18が財前恵一(現ヘッドオブコーチ)という形で役割分担。うまくいかない部分があったため、強化部と話し合い、やはりダイレクターは必要、誰か統括する人がいないと、という結論になった。そこで白羽の矢が立ち、石川のダイレクター就任となった。
石川は「やるからには、変えるところは変える。継続するべきところは継続する、というところを、もう少し明確にします」と方針を打ち出し、就任を受け入れたという。
柏ユースから這い上がってトップチームへ
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中学時代から柏のアカデミー組織で育ち、トップチームへ昇格したキャリアを持つ。「僕自身が柏ユースだったとき、下の下からスタートして、そこから這い上がってトップチームと契約した。選手としては、今できないから、もうプロは無いよね、という観点で見てほしくない。高1のときの僕なんて全くダメでしたけど、積み重ね、積み重ねで高3の夏にプロ契約を勝ち取った。やっぱりもうちょっと広い視野で見ていかないといけない、と僕は見ている」と、自身の経験を今後の業務に生かそうと考えている。
選手のやる気を刺激する声掛けを意識
各カテゴリーの指導者とは違い、ダイレクターは一歩引いた存在、と捉えている。「いかに選手と仲良くなれるか。その信頼関係の中で話しながら『こういうところ良いね』『もっとこういうトライしなよ』とか。ペトロヴィッチサッカーも分かっている中で『こういうプレーって、ミシャが好きだよ』とか。自分のアカデミー時代の経験を、うまく使えるかなって」。選手のモチベーションを高める声掛けを心がけている。
冒頭で業務内容に触れたが、石川は元々ダイレクターの仕事がどのようなものか、全く知らなかった。ダイレクターがいないところからスタートしているため、先入観もない。「全部ゼロから自分なりに考えてスタートしている。凝り固まった思考が無いのは自分にとってはメリット」と、一見ハンディに思える事象をプラスに捉える。
プレミアリーグEASTに返り咲いていないU-18
13日にU-18が年間を通して戦うプリンスリーグ北海道が開幕する。コンサドーレは11年に高校年代最高峰のプレミアリーグEASTで優勝するなど実績を残したが、15年に降格してから返り咲くことができず、プリンスリーグでも21年を最後に優勝から遠ざかっている。
成績不振になると、周囲は原因を選手に求めがち。しかし石川は「選手を勝たせられないのは、僕らスタッフの問題」と主張する。「みんなサッカーを深めようとしている。だけど今の子たちはコミュニケーションの仕方も変わってきているし、信頼関係を築くにも昔のやり方では難しくなった。そういうことを、もっと理解していかないと」
アカデミースタッフ向け講習会を実施
石川は昨年から指導面の課題を重視し、親交のある人材育成プロデュース事業を行う二ノ丸友幸(44)を講師として招き、アカデミースタッフ向け講習会を実施。選手へのコーチングの大切さを植え付けてきた。「(講義内容を)知っているだけじゃなくて、使いこなせるように。思いを持って、やろうとしているスタッフはたくさんいるからこそ、そういう人たちの力になりたい」。
選手に「自立的にやれ」「もっと成長しろ」と指示するなら、指導する側がそうならないといけない、と考えている。子供たちに何をするかを指示するにしても、「子供たちがきょとんとしたら、それは伝え方が良くないよね。そういうところに要因があると思っている」。二ノ丸さんの研修を取り入れながら、「まずはこっち側が変わっていこうと。選手もスタッフも頑張っているが、そこに違った視点もあるよね、プラスアルファの考え方、見方もあるんじゃないか、というのが、もっといろんなところから出てくればいい」。
大学生、社会人として恥ずかしくない人材の育成を
今後のアカデミー組織にどのようなビジョンを持っているのか。「北海道のサッカーをしている子供たちが憧れて、みんなコンサドーレに行きたいと思わせるクラブにしたい」と語る。「アカデミーはプロを育成する組織ですけど、個人的にはプロを最終目的にしていない。プロになる、ならないはその時の状況があって、すごくいい選手がいても、トップチームにたくさん人数がいたら上がれない。それよりもっと社会で活躍できる人、人間性がしっかりしていれば、必ず求められていくと思う。コンサドーレのアカデミーで学んだことが、大学生、社会人になったとき、礼儀やチームワーク、リーダーシップが今でも生きているという、ちゃんと教育できる組織でなければいけないと思っている」と、アカデミーのあるべき姿を語る。
「たとえプロになれなくても、人として自信を持って僕らが卒業させる、送り出すのが保護者に対する責任。選手が10年後、20年後に『コンサドーレの教育がしっかりしていたから、今活躍できている』と思ってもらえるようにしたい。そのために僕らが勉強しなければ」。スタッフ全員が学び、進化していく姿勢を打ち出す石川の下、コンサドーレのアカデミーグループが今後どのような発展を遂げていくかに注目したい。
■プロフィール 石川 直樹(いしかわ・なおき) 1985年9月13日生まれ、千葉県出身。中学生時代から柏のアカデミーでプレーし、2004年にトップチーム昇格。09年7月にコンサドーレへ期限付き移籍で加入。移籍期間を延長した翌10年にキャプテンを務めた。11年に新潟へ完全移籍。13年から仙台でプレー。17年7月にコンサドーレへ完全移籍で古巣に復帰し、同年のクラブ16年ぶりとなるJ1残留に貢献。20年シーズン限りで現役引退。23年にコンサドーレアカデミーの札幌マネジメントチーフ兼旭川・釧路・室蘭チーフを務め、24年からアカデミーグループのダイレクターに就任。現役時代、コンサドーレに6シーズン在籍し、リーグ戦92試合に出場して2得点。J1・J2通算330試合出場14得点。ポジションはDF。