《こぼれ球》J1が街にやってくる
今年からJリーグの全60クラブが参加する大会方式に変更されたルヴァン杯。10グループに分かれてトーナメント戦で行われる1stラウンドは、下位カテゴリーチームのホームで開催されるが、そのルールがもたらす意義を17日の2回戦・J3沼津戦の現地取材で感じることができた。
試合開始約3時間前に沼津駅を発車した路線バスで会場に向かったが、車内は青いユニホームを着た沼津サポーター、そしてそれを大きく上回る札幌サポーターでぎゅうぎゅう詰め。大混雑に驚いている年配の一般女性に、隣に乗り合わせた沼津サポーターの女性が理由を説明していた。「今日はJ1のすごいチームが来るんですよ」。
2017年からJ3で戦う沼津にとって、かつてU-23チームがあったFC東京やG大阪、C大阪、あるいは松本や1回戦を戦った仙台といったJ1在籍経験のあるチームを迎えたことはあるものの、現在進行形でJ1を戦うチームとのホームゲームはクラブ史上初めてのこと。沼津サポーターにとって非常にインパクトのある出来事だったことは、平日開催のホームゲームでは過去最多となる3455人という来場者数が物語っていた。
サッカー協会が主管する天皇杯と違い、リーグ戦同様にホームチームが試合運営を担うのもルヴァン杯の新たな特色のひとつ。取材受け付けを終えて沼津の広報担当者にあいさつした際、「今日はすごくたくさんの報道の方々が来るんですよ」と、若干高揚した面持ちで話してくれた。監督会見室にいつも以上のTVカメラが入る関係で配置方法に頭をひねったり、報道陣やクラブ関係者、そしてこの日来場していた小野伸二O.N.Oが座るエリアに仕切りを設置しなかったため、観戦に来ていた子供たちが中に入ってきたり、という出来事もあったが、その辺りは今後上位カテゴリーのチームを受け入れていく中で、経験を積み重ねて改善していけるはず。クラブの成長促進という観点でも大きな改革なのではないだろうか。
試合は札幌が3―1で勝利し、J1としての貫禄を見せた格好となったが、メインスタンドの沼津サポーターの熱気はすごかったし、同点ゴールの場面では大きな盛り上がりを見せていた。また地元・沼津出身のMF長谷川竜也が試合前に紹介されると盛大な拍手が贈られ「地元ならではですし、うれしい気持ちでいっぱい。幸せな気持ちでした」と喜ぶなど、温かいムードに満ちあふれた一戦になった。
飛行機が全便満席となるレベルで浦和サポーターが大挙して押し寄せたJ3鳥取や、市内のホテルが鹿島サポーターからの予約で軒並み満室となったJ3八戸など、J1チームがわが街に来ることのメリットが、各地のローカルニュースで報じられた。スタジアムの中だけでなく、その周辺も盛り上がることを実証していけば、巡り巡ってそのクラブの強化にもつながる。ルヴァン杯の新たな可能性を肌で感じることができた1日だった。