1投目から全開 北口榛花 女子やり投げ金メダルも満足せず【パリ五輪】
マラソン以外の陸上女子種目で日本勢初の金
【パリ共同】パリ五輪第16日の10日、陸上女子やり投げで北口榛花(26)=JAL、旭東高出=が65メートル80で優勝し、マラソン以外の陸上女子種目で日本勢初の金メダルを獲得した。昨年の世界選手権との2冠。陸上では2004年アテネ五輪の男子ハンマー投げの室伏広治、女子マラソンの野口みずき以来5大会ぶりの「金」となった。旭川市出身で、旭東高で陸上を始めた。初出場の21年東京五輪は日本勢57年ぶりの決勝に進出したが、けがの影響で12位。チェコを拠点に実力を伸ばし、世界に飛躍した。
「6投目までのんびりしていられない」
過去に最終投で何度も逆転劇を演じてきたが、この日の北口は違った。陸上女子やり投げの世界女王は「いつもみたいに6投目までのんびりしていられない。周りに重圧をかけられるように絶対に1投目からいく」と決めていた。最大限に集中力を高めて放たれたやりは65メートル80に到達。1投目の自身最高記録となった。
予選では6人が自分よりいい記録を出した。警戒心を強め「最初から6投目(と同じ)ぐらい集中した」という。試合前練習も隣接の補助競技場ではなく、本番会場のトラックと似た感覚の別の練習場を選び、念には念を入れた。2投目以降は伸ばせなかったが、誰にも抜かれず、最終投てきを待たずして歓喜の瞬間が訪れた。
貪欲さの原点はチェコでの出来事
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幸せをかみしめながら「金メダルでもこの記録では満足できない」と言った。貪欲さの原点にあるのは、チェコへ拠点を移した2019年の3月5日の出来事だ。セケラク・コーチから「友達との練習」だと告げられて向かった先には世界記録保持者で08年北京、12年ロンドンと五輪を2連覇した憧れのシュポタコバさん(チェコ)がいた。
これまでで唯一の合同練習。練習から助走で投てきラインを越えるファウルをしない意識を徹底することなどを教わり「どんなに憧れていても、私と一緒じゃなくていい」とも言われた。今も自分の投てき以外の動画で一番目にするのはシュポタコバさんが08年に出した世界記録、72メートル28の1投。助走の力強さを参考に、しなりが特徴の自らの投げと融合させて五輪の金メダルを手に入れ、偉大な先達に少し近づいた。
「次は夢ではなく現実に70メートルを」
5日のパリ入り後から毎日のように70メートルを投げる夢を見た。「次は夢の中ではなく、現実に70メートルを投げたい」。26歳の女王の挑戦はまだ終わらない。
北口は声を詰まらせながら喜びを語った。一問一答は次のとおり
―今の気持ちは。
「メダルがすごく重く感じる。今季は苦しんで、自分の中でしっくりくるものが全然なかった。この状態で金メダルが取れるのか、勝負ができるのかという不安があった。その不安が一気に抜けていくような気分」
―1投目で65メートル超。
「集中できていたからか、全然緊張を感じることなく試合ができた。1投目はいつもの(最終)6投目ぐらい集中して臨んだ。思ったより飛んでほっとした。焦らずに助走しようと思って、その通りにできた」
―2投目以降は。
「夢の中では70メートルを投げられていた。もっと投げられると思ってずっと挑戦していた。金メダルを取ったら結構満足できるものなのかなと思っていたけど、65メートルではまだ満足できない。また頑張る理由ができた」
―東京五輪からの3年を振り返って。
「東京五輪でけがをして、一から見つめ直すきっかけになった。世界陸上も含めて、いい結果がやっとついてきた。またもっと上を目指して頑張りたい」
―次の目標は。
「夢の中ではなくて、現実で70メートルを投げたい。満足できない理由があるのはとても幸せ」