駒苫が支部敗退からの巻き返しへ 新主将は初の台湾人留学生・林逸洋外野手「優勝旗を持つのを意識して」
7年ぶり6度目の全道制覇へ
秋季全道高校野球の支部予選が9月下旬から全道10支部で幕を開ける。この夏、12年ぶりに南大会進出を逃した駒大苫小牧は、新チームの主将に1年春からベンチ入りする同校初の台湾人留学生・林逸洋(リン・イヤン)外野手(2年)が就任。7年ぶり6度目の全道制覇へ巻き返しを図る。
母国の英雄・陽岱鋼に憧れて
主将に指名された林が流ちょうな日本語で力強く誓った。「目標は神宮大会に出ること。次の大会で絶対に取り返すつもりで全道優勝を目指す。札幌ドーム(プレド)で優勝旗を自分が持つのを意識してやっていきたい」。母国の英雄で憧れの存在・陽岱鋼(37、オイシックス)が日本ハム時代に日本一になった舞台で頂点を目指す。
’04夏の甲子園決勝回顧㊤「香田監督は知らなかった」駒苫・佐々木監督×済美・鵜久森氏対談
俊足巧打の大型外野手
昨秋の全道は1番、今夏は3番、新チームでは主砲の最有力候補だ。186センチ、77キロと大柄だが、長打力に加えてチームトップクラスの俊足も兼ね備える。練習試合はここまで約20試合に出場。「選球眼とかピッチャーに対してプレッシャーをかけるのが得意。最近ずっと4番を打っているので、監督に求められているのは、ランナーが出ているときに絶対に返すこと」と自らの役割を自覚している。
佐々木監督「彼の成長も願って」
佐々木孝介監督(37)は自らも現役時代に務めた主将に指名することへ迷いはなかった。「1年生の時からベンチにも入って、経験値も面倒見の良さもある。この学年はイヤンしかいないだろうなと。キャプテンをすることで彼の成長も願っています。能力はまだまだ粗削りなんですけど、非常に高いものを持っているんです。振る力、特にバッティングですね」。名門の打線を支える中心選手としても期待している。
留学エージェントからの紹介で3人在籍 来日前には日本語を勉強
この記事は有料会員限定です。
登録すると続きをお読みいただけます。
数年前、亜細亜大の生田勉前監督(58)を通じて留学エージェントを紹介された。「来日する前に、ちゃんと日本語を勉強させてくれるんですよ。言葉も分からない状況で来るわけではないので、非常に僕らも助かってまいす。台湾って親日なので、日本への理解がすごくあって、やりやすいかなと思います」。林のほかにも2人の台湾からの留学生がチームに在籍している。
【’24ドラフト】亜大の152キロ右腕・北嶋洸太投手 憧れの日本ハム伊藤大海を追って
まさにジャパニーズドリーム
林の日本への野球留学の動機については「英雄です」という陽岱鋼の存在が大きかった。陽は林と同様、中学卒業時に日本に野球留学すると、2005年に高校ドラフト1位指名で日本ハムに入団。日本一にも輝き、数々のタイトルも手にした。まさにジャパニーズドリームを体現した一人だ。林は「陽岱鋼、大谷翔平、中田翔選手の時」と、3人が主力として活躍していた幼い頃から毎年夏休みに札幌へ応援に訪れていたという。「将来は陽岱鋼さんみたいなプロ野球選手になりたい」と目を輝かせる。
20年前の甲子園決勝が生んだ縁 済美高出身で元日本ハムの鵜久森さんが1日コーチ
日本チームに大敗した経験も動機に
まだそのほかにもある。小学4年生の時の大会で、日本から出場したチームに0-23で敗戦。日本野球のレベルの高さをその身で感じた。さらに14年に台湾で公開された映画「KANO」は、日本統治下の1931年夏の甲子園で準優勝した台湾代表の嘉儀農林の快進撃を描いた作品。「小さい頃に見ました。感動した」。日本高校野球の聖地への憧れも生まれた。
あえて台湾人のいない高校を希望
日本では高知中央や明秀日立などに台湾から留学する球児が多いが、林は台北長安中3年時に留学エージェントにあえて台湾人のいない高校を希望したところ、偶然にも日本ハムの本拠地と同じ北海道の駒大苫小牧を勧められた。「縁がありますね」と興味を抱き、2022年11月に練習体験に訪れ、留学先に決めた。
入学前に日常会話を習得
林は07年1月生まれで、本来は夏に引退した3年生と同じ学年だが、台湾は欧米の入学シーズンである9月に合わせるために6月が卒業時期。その後すぐ9月に日本へ留学すると、日本での高校1年生の約半分を失うことになるため、翌年の4月まで待って入学した。その間は「めっちゃ日本語を勉強しました」と、来日時には日常会話ではほぼ問題ないくらいのレベルに達したという。
北野副主将が環境をサポート
初めての留学生にも部員は優しく迎え入れてくれた。入学当初は「話すのが速すぎて」と会話についていけない場面もあったが、それを支えてきたのが、寮で同部屋の北野佑一郎副主将(2年)だ。「野球以外のところで、イヤンが野球に集中できるようにサポートしたい。野球に関してイヤンは背中でも見せるタイプ。自分はそこまで野球の技術がないので、周りへの言葉だったりでサポートできたら」。スマートフォンの翻訳アプリを使ってコミュニケーションを取ることもあったが、今ではそれも不要だ。
支部予選前に花巻との練習試合も
9月28日開幕の室蘭支部予選まで残り1カ月を切った。今週末には岩手・花巻東と練習試合を行う予定だ。林は「実戦の意識、緊張感とかまだ弱い。去年の秋に1回ドームに立っているので、あの時の緊張感をもっと練習からイメージした方がいい。絶対に甲子園に行きます」。チームの留学生の先駆者が、新たな歴史を紡ぎ出す。
【道スポメモリーズ】⑨駒苫 道勢初の全国制覇 2004年8月23日紙面