【月1連載】トム・ブラウン「M-1」有終Vへ 奇人の追想①(2009~16年)
2009年結成 出場資格は今年が最後
札幌出身のお笑いコンビ、トム・ブラウンが、漫才頂上決戦「M-1グランプリ」のラストイヤーに臨む。ナンバーワンの漫才師を決めるM-1の出場資格は結成15年以内。2009年に結成したトム・ブラウンにとっては最後の年となる。道新スポーツデジタルでは、トム・ブラウンの初出場から昨年までの戦いぶりを布川ひろき(40)とみちお(39)に振り返ってもらい、今月から月1回の全3回に渡ってお送りする。
右も左も分からず1回戦敗退…
右も左も分からないまま、漫才の猛者たちが集う舞台へ乗り込んだ。08年はユニットを組んで出場したが、トム・ブラウンとして初めて挑んだのは翌09年だった。当時はライブも月に3、4本程度。結果は1回戦敗退。惨敗を喫した。
布 川「あのときは『ファイトー、イッパーツ!』のやつじゃない?」
みちお「『ファイトー、イッパーツ!』なんてネタあったっけ?」
布 川「あるある。『ファイトー、イッパーツ!』って引き上げるみたいなネタで、ちゃんと助けないことの連発です」
みちお「懐かしい」
布 川「この年はキングオブコントも1回戦で落ちて、やっべーってなった」
みちお「24歳ぐらいか」
布 川「確か、会場はTEPCOホールだったと思うんですけど、今のシダックスカルチャーホール。反応を見ても、うーん…って感じでしたね」
みちお「ちゃんとやり切るので精一杯みたいな感じだった気がしますね」
翌年は2回戦敗退 手応えなし
翌10年も2回戦で敗退。09年同様、手応えも得られず、浮上への光は見えなかった。
布 川「今、僕らの作家をやってくれている元グリーンランドの川瀬さんという方がいるんですけど、そのグリーンランドさんが初めて準々決勝まで行っていた。札幌よしもと勢ではタカトシさんが決勝に行ってから誰も3回戦を越えられていなかったので、それでちょっと『行けるんだな、そこまでは』と思いましたね」
10年は何やったか、ネタも思い出せない
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みちお「10年はやったネタは覚えてない」
布 川「何やったっけ?」
みちお「思い出せないね」
一旦終了、からの5年後再開
同年でM-1は一旦終了し、次に再開したのが5年後の15年だった。
布 川「M-1が始まるって感じはしましたね」
みちお「出場者全員に審査員は誰がいいですか? みたいな紙が配られて書いて出しました」
布 川「あったわ、それ」
みちお「(オードリーの)若林さんって書いた気がする」
再開後「ウケてないのに」3回戦まで行けた
当時のネタ作りはお題を決めて、ひたすらボケてツッコむ形を繰り返しながら精査する方法を取っていた。M-1のなかったこの5年間で実力を培ってきた自負はあったが、壁は厚く3回戦で敗れた。
みちお「一応、5年ぐらいやってきたという気持ちはあった。全然ウケてないのになぜか3回戦まで行けた記憶がありますね」
布 川「1回戦で北海道の観光名所をひたすら爆破するネタをやりました。時計台の周りのビルを爆破したり、函館の夜景を守るために香港の夜景を爆破したりとか」
みちお「ネタ作りは世田谷とかの会議室みたいなところで、お題みたいなのを決めて、アドリブでひたすらボケてツッコんで、ボケてツッコんで、を繰り返して良かったやつを羅列していく作り方だった気がする」
布 川「30分ぐらい適当に振って。そんなに難しいお題設定ではなかった」
みちお「コンビニで、とか」
布 川「当時、モグライダーさんがライブで割とそういうネタをやっていたので、弱いモグライダーさんみたいな感じでしたね」
満を持して合体ネタで臨むも、まさか…
そして16年、今では代名詞とも言える合体ネタを持ち込んで臨んだが、まさかの2回戦敗退。ネタに自信を持っていたからこそ、立ち直るにも時間を要した。
布 川「そこが一番きつかったですかね~」
みちお「15年に『アッコにおまかせ!』に出させていただいて、全然ダメだった。それで単独ライブで合体ネタができてっていう流れだったので、いいネタができたぞっていう感覚もあったから、なおさらきつかったです」
布 川「単独ライブでやったときは、一休さんを5人集めるキング一休さん。一休さんの中に新右衛門さんが1人入って、キング新右衛門さんになるんですね。意味が分からないですからね。なんで新右衛門さんの方が強いの。だから、今思うとネタが荒かった」
みちお「M-1の前に長崎で単独ライブやったんですけど、お客さんが6人ぐらい。本当に会場が揺れるぐらい合体ネタでウケた。そういう自負もあった(笑)」
布 川「6人だったから幻だった。16年は落ちて、結構やる気が削がれた。でもライブは月20本ぐらいはやっていて、M-1後もスケジュールに入っているから、とりあえず出て。それで合体ネタをやったりしていたんですけど、僕はライブで全く同じことをやるのが好きじゃなくて、一つでも変えたかったので何かは変えていた。惰性で出ながらも。それがちょっとずつ良くなっていた感じですかね。だからラッキーです」
みちお「どうやって変えていたっけ?」
「辞めそうですね」噂が流れて…
布 川「ちょっとワードだけ変えるわ、とかぐらいのこと。言葉を一文字変えるぐらいの。サツマカワRPGが『トム・ブラウンさん、辞めそうですね』って言われたのを覚えている。『うちの事務所の人が結構噂してますよ』って。そういう空気が漂っていたらしいです」
みちお「M-1落ちたあとは3カ月ぐらい記憶が曖昧です。合体ネタじゃないネタがもう1個あって、それをずっとやっていたような気がする。僕がモノマネをして布川がそれが誰かを当ててくださいっていうクイズ問題の漫才」
布 川「この前『ネタパレ』で初めてそのネタをできた。どの番組でもやったことなかったけど、ついにやれた」
惰性ではあったが、お客さんの前でライブを続けていたことが功を奏した。ネタも自然とブラッシュアップされていき、ここからトム・ブラウンは躍進する。【続く】
■プロフィール トム・ブラウン ツッコミの布川ひろき(1984年1月28日生まれ)と、ボケのみちお(84年12月29日生まれ)が組む漫才コンビ。ともに札幌市出身。2009年にコンビを結成し、芸能人やアニメのキャラクターを合体させる「合体漫才」という特異なネタで脚光を浴びた。「M-1グランプリ」の最高成績は18年の決勝6位。ケイダッシュステージ所属。