【検証・札幌J2降格③】世代交代進まぬチーム編成 〝余力〟が底を突いたミシャの7年目シーズン
最終回は「ミシャ政権7年目の明暗」
北海道コンサドーレ札幌が9シーズンぶりのJ2降格となった要因を検証する連載の最終回は、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(67)の就任7年目に見えた「明と暗」。そして世代交代が進まなかったクラブのチームづくりについて触れていきたい。
チームがここ数年で抱えていた問題
「数年間に渡って隠れてきた部分が今年どんどん降りかかってきて、それが結果として降格という形になってしまったと思っている。クラブもこの数年のチーム状態を考えるべき」。今季から主将に就任したMF荒野拓馬(31)の言葉だ。J2降格は敵地での広島戦前日の移動中に決定したため、空港到着後に選手を代表してコメントを出した。その中に、今季のチームが抱えていた問題が見え隠れしていた。
クラブ創設からJ1リーグでは守備的な戦術を取ることが大半だった札幌というチームに、見る者を魅了する攻撃的なサッカーを植え付けたペトロヴィッチ監督。就任1年目の18年にクラブ史上最高位のリーグ4位、翌19年にはルヴァン杯準優勝という新しい景色を見せてくれた。名だたる名将の中でも非常に優れた指揮官であることに間違いはない。
オールコートマンツーマンの戦術
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だが、20年シーズン途中にオールコートマンツーマンを基本戦術として採用したあたりから徐々に戦いぶりは不安定さを増していくこととなった。札幌よりはるかにクラブ規模が大きい川崎や横浜Mといった攻撃的な強豪チームに対して、互角以上の試合を繰り広げる一方、運動量や走力を強く要求されるが故に、特に夏場の本州でのアウェー戦では〝ガス欠〟を起こし、思うようなサッカーができない試合も多々あった。同年には8月から9月半ばにかけてリーグ戦で9試合勝利から遠ざかる時期もあった。
初めて残留争いに巻き込まれた22年
22年は開幕から6試合連続ドローを含む7戦勝ちなしという低調なスタートを切ると、ミシャ政権下で初めて残留争いに巻き込まれた。全34試合中26戦を終えた時点で、自動降格圏のチームに勝ち点4差まで迫られたが、厳しい夏場の戦いを終えた9月以降に、MF青木亮太(28)のゴールラッシュや、夏の移籍市場で補強したFW金健熙(キム・ゴンヒ、29)の活躍もあって、ラスト8試合で5勝2分1敗という成績で巻き返しに成功。冷や冷やながらも何とかJ1残留を決めた。
後半戦に3勝しかできなかった23年
翌23年は前年終盤戦の勢いをそのままにリーグ前半戦では攻撃陣が躍動。シーズン折り返しとなる第17節終了時点で18チーム中8位、総得点はリーグトップの38得点(1試合平均2.24点)という、これぞミシャサッカーという大暴れっぷりを披露した。しかし、その勢いは持続せず、シーズン後半戦の17試合で挙げた白星はわずか3つのみ。前半戦の貯金と、1チームのみがJ2降格というレギュレーションにも救われ、辛くも7年連続のJ1残留を果たした。ただ、この時点ですでにペトロヴィッチ監督、そして札幌というクラブは持てる〝余力〟を使い果たしていたのかもしれない。
24年は「黒字決算」を目標に
24年シーズンを迎えるにあたり、三上大勝代表取締役GM(53)は「当期決算で黒字を計上させる」という方針を打ち出した。これはJリーグクラブライセンス制度の財務基準を考慮しもの。新型コロナウイルスの影響で設けられていた特例措置が終了したことに伴い、24年以降で「債務超過」または「3期連続の当期純損失計上」を発生させるとクラブライセンスを剝奪されてしまう。それを回避するために打ち出された方針だ。
前期に約4億円の純損失を計上し、純資産が400万円弱まで目減りしたクラブは、第三者割当による募集株式の発行によって自己資本を増やすとともに、秋春制が予定されて不確定要素の大きい26年度を前に、黒字決算となる年度を設けようという狙いがあった。
既存選手の成長に期待するも
今季は「J1残留」と「黒字決算」という二兎を追った。昨季までの主力が多数チームを離れた中で、その抜けた穴をピンポイントの補強、あるいは既存選手やルーキーの成長によって埋めようとしたが、結果的にはそのもくろみが大きく外れることとなった。
DF田中駿汰(27、現C大阪)が定位置だった右CBの新戦力として期待されたDF髙尾瑠(28)は相次ぐケガの影響で23試合の出場にとどまった。MFルーカス・フェルナンデス(30、現C大阪)に代わる右WB候補のMF近藤友喜(23)もまた序盤戦はケガやチーム戦術への適応に悩まされた。
横浜FCに期限付き移籍したDF福森晃斗(31)に代わって左CBのスタメン候補として期待されたのが、昨季ブレークを果たしたDF中村桐耶(24)だったが、昨年は見せていた前への推進力や精度の高いサイドチェンジといったストロングポイントが今季は鳴りを潜めた上に守備面での課題が露呈。定位置確保には至らず、夏場以降は途中加入のDFパクミンギュ(29)の後塵を拝した。
最盛期は大卒選手が屋台骨を支えた
20年シーズンに加入したMF金子拓郎(27、現ベルギー1部コルトレイク)、MF高嶺朋樹(26、現ベルギー1部コルトレイク)、田中駿、その翌年に札幌入りしたFW小柏剛(26、現FC東京)など、ミシャサッカーの最盛期には個性豊かな大卒選手たちがチームの屋台骨を支えていたが、22年以降はレギュラーの座を脅かすような選手が出てきていない。
今季の大卒ルーキーは、MF田中克幸(22)が第37節終了時点で17試合出場1得点で、DF岡田大和(23)は2試合の出場でプレー時間は合計20分にとどまり、夏にはJ2熊本へ期限付き移籍した。
またクラブの育成の根幹をなすアカデミーも、札幌U-18からのトップ昇格は直近5年間でDF西野奨太(20、現讃岐)とFW出間思努(19)の2人のみしかおらず、次代を担う選手がなかなか育てられていない。
宝くじがハズレた外国人の補強
リーグ戦で低迷が続いていた中、パートナー企業各社が購入してくれたチケット代金を強化費に充て、今夏の移籍市場で大量7選手が加入。史上最大規模の補強だったが、DF大﨑玲央(33)やパクミンギュはすぐに主力としてチームに貢献した一方で、得点に絡むことが期待されたFWジョルディ・サンチェス(30)やFWアマドゥ・バカヨコ(28)は思うような結果を出せず、MFフランシス・カン(26)に至っては、これまでリーグ戦に出場できていない。
かつて1999年から01年まで札幌を率いた岡田武史監督(68)が「外国人は宝くじのようなもの」と口にしたことがあったが、今回買った〝宝くじ〟は残念ながらハズレに終わった。
選手が育たず若手起用が難しかった
さらにチームの世代交代もうまく進んではいかなかった。先月9日に行われたアウェー湘南戦のスタメン11人の平均年齢は29.27歳と、湘南の26.36歳に比べて札幌は3歳ほど上回った。ペトロヴィッチ監督が指揮を執った初年度(18年)のリーグ最終戦では平均年齢が25.73歳と、現在に比べて4歳近くも若かっただけに若手起用に定評のある指揮官としても難しいシーズンだった。
冒頭の荒野主将の言葉通り、主力選手の流出や若手選手の伸び悩みなどでチーム力をうまく積み上げることができなかったクラブの編成面のほころびが、「数年間に渡って隠れてきた部分」が、ついに露呈されてしまった格好だ。
1年でのJ1復帰に向けて
今夏の選手獲得費用が計上される24年度の決算は来年4月に公開される予定だ。万が一、純損失を計上するような事態であれば、今季の出来事が全て水泡に帰することとなり、25年度での黒字化が絶対条件として求められる状況となる。1年でのJ1復帰を目指す来季、強化と経営双方のトップである三上GMの真価が問われることとなる。《おわり》