札幌ペトロヴィッチ監督ラストゲーム 教え子たちが「7年間の積み重ね」で生んだゴールで白星締め
■J1第38節 札幌1-0柏(12月8日、札幌・大和ハウスプレミストドーム)
札幌でのJ1リーグ通算82勝目
7年間に渡って北海道コンサドーレ札幌を率いてきたミハイロ・ペトロヴィッチ監督(67)のラストマッチとなったホーム柏戦。札幌は開始早々の前半5分に生まれたMF近藤友喜(23)の先制ゴールで逃げ切り1-0で勝利した。札幌でのリーグ戦246試合目の指揮を執った名将に、教え子たちが通算82勝目(67分97敗)となる白星をプレゼントした。
多くの人の思いに応えたという感情に
2018年1月12日に行われた監督就任会見から2522日。柏との戦いの終了を告げるホイッスルがプレド場内に鳴り響き、ペトロヴィッチ監督と札幌との長い旅路が終わりのときを迎えた。「過去にいつだったか思い出せないくらい、試合の後はすごくさわやかな気持ちになった。多くの人たちの思いに応えられたという、そういう感情が芽生えた」と、指揮官は試合終了の瞬間の心境を振り返った。
1本の縦パスから3人が絡んで先制
7年前の就任直後から、札幌の選手たちに教え込んできた攻撃的サッカー。そのスタイルは、最後の試合でも十分に発揮された。前半5分、右サイドのハーフウエーライン付近でボールを受けた〝ミシャサッカーの申し子〟MF駒井善成(32)が前線のMF浅野雄也(27)へくさびのパスを入れると、浅野はワンタッチで、走り込んできたFW鈴木武蔵(30)へとヒールパス。鈴木が内側方向へとドリブルして相手DFを引きつけると、その動きで空いたスペースへ走り込んだ近藤に、ラストパスを出して勝負あり。複数の選手が連動して相手守備網を崩すという、ミシャサッカーの土台とも言える攻撃連係で、ミシャ体制ラストゴールを生み出した。
最後までやり続けた攻撃的サッカー
冷静にGKの動きを見極めてドリブルで交わし、無人のゴールへと流し込んだ近藤が「4人の意思疎通が取れた場面だったと思う。4人でいい形でできたので、ミシャの下でやってきたことが出せた得点だった」と、指揮官の指導のたまものだと感謝を口にすれば、その指揮官もまた「この7年間、我々がずっとやり続けてきた攻撃的なサッカーの一部が、今日も得点という形で生まれたことは、我々がやってきた積み重ねだ」と、教え子たちが自身のサッカースタイルを体現してくれたことを喜んだ。
永遠にかなわない夢物語が現実に 札幌に自信をもたらした
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札幌のクラブ史に、革命をもたらした監督だった。就任前年の17年までに、札幌は通算6季J1に在籍していたが、その際にチームが選択していた戦術は、自陣で守備を固めて守り、得点は強力なストライカーの一撃に頼るというものが大半だった。J1得点王を獲得したFWウィルが在籍していた01年。途中加入ながらわずか14試合で10得点を積み上げたFWジェイ(42)がいた17年こそJ1残留に成功したものの、それ以外の年では攻守両面でもろさを露呈してJ2に降格。国内トップリーグの舞台で、札幌が華麗で攻撃的なサッカーを披露することは、永遠にかなわない夢物語とも思われていた。
就任後の18、19年に大きく躍進
だがペトロヴィッチ監督は、そんな夢物語を現実のものへと変えてみせた。過去に指揮していた広島、浦和でも披露した攻撃的なスタイルを札幌にも植え付け、チームの戦術を、そしてマインドをも塗り替えた。J1の順位表では、下位に名前があることが当たり前だった札幌を、就任初年度からいきなりクラブ史上最高位の4位まで押し上げると、翌19年にはクラブ史上初となるルヴァン杯決勝進出を達成。惜しくもあと一歩のところで初タイトル獲得とはならなかったものの、チームをJ1の中でも互角以上に戦えるチームへと進化させ、選手やチームスタッフはもちろん、クラブやサポーターにも大きな自信を植え付けてくれた。
J2降格に責任感じる
7年目の指揮を執った今季は、故障者の続出に苦しみ、シーズン序盤から低迷。リーグ後半戦から巻き返しを見せたものの、無念のJ2降格という結果に終わった。試合後のセレモニーでは「この札幌が降格してしまったこと。そのことに関して非常に悲しい気持ちと、責任を感じている。今シーズン、全ての札幌に関わる皆さんの後押しがありながらも降格してしまった、その責任は監督である私にある」と詫びたが、この7年間でそれ以上に大きなものを、このクラブにもたらしてくれたことは間違いないはずだ。
札幌がいるべきJ1に戻るために
「私にとっての故郷」と語る札幌、北海道の地を舞台に戦ってきた。そのチームを支える「日本一」と話したサポーターへ、指揮官は「これまで通り、このチーム、このクラブを応援し続けてほしい。来シーズン、J2の厳しい戦いが待っていると思うが、チームを引き続き応援して、札幌がいるべきJ1に戻って行く、その後押しをお願いしたい。皆さん、愛してます」と、最後のメッセージを送った。
札幌を愛し、札幌から愛されたペトロヴィッチ監督。共に戦った7年間の記憶と、その攻撃的なマインドを胸に、チームは来季から新たな一歩を踏み出していく。