【トム・ブラウンの新春インタビュー】M-1の舞台裏 そして幻の2本目「剛力」創作秘話
ラストイヤーの結果は6位
ラストイヤーとなった昨年の「M-1グランプリ」で決勝に進出したトム・ブラウン。結果は6位で上位3組による最終決戦に残ることはできなかったが、独自路線を貫くネタで大きな存在感を示した。決勝2日後の12月24日には「ラヴィット!」(TBS系列)に出演し、幻の2本目となった「剛力」のネタを披露。朝から日本中を笑いに包み込んだ。道新スポーツデジタルの単独インタビューでは、最後のM-1を振り返るだけではなく「剛力」の創作秘話や今年の目標などについて、余すことなく語った。
どんどん悔しくなってきた
―最後のM-1お疲れさまでした
布 川「いや~、まさか優勝するとは思わなかったですね」
―(笑)。反響は大きいですか
布 川「まだ分からないですね」
みちお「どんどん悔しくなってきてます。終わった瞬間は割とM-1からの解放とかもあったから、悔しいけど、鎖が取れたような感じで、ちょっとテンションも変だったんですけど、ちょっとずつ落ち着いてきて悔しさがこみ上げてきました。あとは喪失感というか、もう出られないんだと思って。(自分たちのお笑いを)証明し直せないんだ、っていう。悔しいですね。でもしょうがないかな、って気持ちでもあります」
布 川「やっぱり悔しいのはあります。ありがたいことにお仕事が入っていて、ちゃんと考えられていないので整理できていないんですけど、『ラヴィット!』に出させてもらって、元和牛の水田さんとお話をいろいろさせてもらって、ちょっとは整理できそうかな、みたいなのはありますね」
―決勝では最後の10番目でした
布 川「最初はトップが嫌だったので良かったんですけど、途中からはもう出たいよ、ってなりました」
みちお「胃液が出すぎて、腸がちぎれるかと思いました(笑)。結構いろんな人から僕が出て行ったときに『顔、黒すぎない?』って言われました。うっ血してたんだと思います」
布 川「トリは嫌でしたね~。途中まではママタルトがせり上がるところの写真を撮るぐらい余裕があったんですけど。大鶴肥満が上がっていくところがインスタに載ってますので、ぜひとも。僕は緊張したとかではないかもしれないですね。全部覚えてますし、舞台上のことも覚えてます。明確に覚えているのは2ボケ目のウケがそんなで、これダメなやつじゃない? って思って、上戸彩さんを見ることに切り替えましたね。めちゃくちゃきれいでした」
上戸彩さんだけは一切変わらず、きれいでした
―6年ぶりの上戸彩さん
布 川「6年ぶりだから、いろんな場所が変わっていたんですよ。Mという文字の光り方も違ったり、舞台上が金ピカになっているとか、全部違ったんですけど、上戸彩さんだけは一切変わらず、きれいでしたね」
みちお「やっている最中は何となく覚えてますけど、はっきりって感じじゃないです。6年前に出たときはせり上がりの装置の配線が30個ぐらい出ていて、こんな電気のパワーで小っちゃいエレベーターを動かしているんだと思っていたんですけど、時代が進んで、裏側の配線が黒い箱3つ分になっていたんですよ。技術的な進歩も感じました」
―事務所のケイダッシュステージとしても、ヤーレンズと一緒に決勝に進み、審査員にはオードリーの若林さんもいました
布 川「やっぱり正面に、あの距離感に若林さんがいるっていうのは、ちょっとこみ上げるものがありましたね。おっしゃってくれたコメントも嬉しい気持ちになりました。だけど、めっちゃウケるわけでもなく、めっちゃスベったわけでもないと思うので、難しい審査をさせてしまったな、っていう。どっちかになっていれば簡単な審査だったと思うので、申し訳ないですね」
みちお「本当にあの場にヤーレンズと僕らと若林さんがいるっていうのは最高中の最高。人生で二度と来ない場面なので、その場にいられたことが本当に嬉しいです。確かに、もうちょっとその場の空気を切り裂けるような感じだったら良かったんですけど、若林さんが『テレビに出ながらクレイジーさを保つの難しいと思うんですけど、6年前よりさらにクレイジーになって帰って来て、本当にクレイジーな人たちなんだと思いましたね』とおっしゃってくださったのは、良かったと思います。できれば優勝して、と思っていたんですけど、それができなかったので、その言葉だけでも本当に良かったな、という感じです」
布 川「裏を返せば、テレビにいっぱい出ると、そういうものがなくなってくる中で、そのまま残っていたということは、地にそれがあるということ。やっぱり北海道の芸人は今、サイコ野郎が多いって言われていて、大体みんなサイコ。それを実証する結果になったんじゃないかと思います。別に無理してない。普通にただやばかったっていう」
1本目に持ってくる選択肢はあったのか
―幻の2本目「剛力」を1本目に持ってくる選択肢はありましたか
布 川「それが真空ジェシカの川北くんが、僕らのネタ順の前々とかぐらいに暫定ボックスから来てくれて、『剛力さんのは(1本目に)ないっすか?』って。2本目でやるかもしれないっていうのは知っていたので。『1本目の方がいい?』みたいな話になって。いや~、そこで決断できたら良かったなと僕は思ってますけど」
みちお「でも、本当に勝つために、っていう感じですよね。勝つためにと考えて、それが良かったのかどうかとか、そういうのを考えたら永遠に悩むことになっちゃう。そう動いて、その気持ちでやったので、もうしょうがないよな、って感じです」
布 川「川北くんがよく言いに来てくれたなと思います」
みちお「本当だよな」
布 川「それでもしも、僕らの方が点数が高かったら、自分が落ちてしまうわけですから。それを言いに来てくれるっていうのは、なかなか筋の通った男だと思う」
みちお「そうだね」
布 川「川北くんにはロン毛の先輩として、いい美容室を紹介したい」
―準決勝もトリでした
布 川「そうなんですよ」
令和ロマンのおかげかも!?
―準決勝は手応えを感じていましたか
布 川「多分大丈夫かな、通っているかな、みたいな感じではありましたけど、僕はそれ以上に『令和ロマンすごいな』と思いました。令和ロマンの準決勝のネタは決勝の2本目でやったやつなんですけど、これこのまま行ったら優勝されるぞと。でも、そのおかげで2本目の剛力彩芽さんのネタを結構直したので、令和ロマンがいて良かったんでしょうね。『ラヴィット!』でネタをやらせてもらったのも、それを直したから割と話題にしてくれたりしたんですけど、それがなかったら、もしかしたら剛力さんと事務所に叩かれて死んでいたかもしれないです(笑)。そういう意味では良かったですかね」
みちお「本当にウケてなかったら消されていたかもしれない」
布 川「可能性ありますから(笑)」
みちお「まだ分からないですけど」
布 川「まあね。『思い出した! ムカつくー!!』って」
みちお「峯岸みなみさんのモノマネしていたときもそうだけど、(懐の深さが)スターだよね」
布 川「全然本人の前でやっていたしね。『剛力』のネタは事務所の公式YouTubeに上がっていますので、ぜひ見てください」
ベースのネタは4年前ぐらいから
―「剛力」のネタのきっかけは
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布 川「結構前からこのネタはありました。ベースのネタは4年前ぐらいに単独ライブでやったやつで、それをM-1に持っていこうとしたんですけど、何かまだ甘いなと思ってやめたんですよ。毎年直しながら、単独ライブでほぼやっていた気がします」
みちお「3年ぐらいやってたよね」
布 川「そうそう。剛力彩芽さんだけ違う設定にどんどん変わっていったんですけど、毎年1本ずつやっていて、何かそこまで良くならないな、ってなったので、昨年の単独ライブで剛力さんのネタを3本」
みちお「一つの設定を3種類やるっていうのはどう? っていった中で、じゃあ剛力さんもやろうとなって、3つやるっていう。そこまでやるの? って(笑)」
布 川「いいネタが1本できなかったので、3倍やれば何か1個いいのできるだろって(笑)」
みちお「これも単独ライブの最初の名古屋公演の前日に、剛力彩芽さんのネタが2個はできているけど、3個目ができてないぞって言って、夜中3時ぐらいにできたやつなんですよ」
布 川「元々アンパンマンの設定の通常のネタがあって『これで剛力彩芽さんの顔投げたりしよう』みたいな話になって、それがスラスラできたんですよね。言ってから、1時間ぐらいでできた」
みちお「夜中の2時、3時ぐらいに帰りたくても帰れなくて、ヘロヘロのときにどうやったらできるんだと思って、剛力彩芽さんをアンパンマンの顔みたいにして、撃ってから投げて『バチン! ゴフ…。ダメー!』でいいんじゃない? と。最初はごめんなさいのオチでやろうとしたんですけど、別ネタでごめんなさいのオチがあるから、逆に『俺、悪くねーよ』でどう? みたいな(笑)」
いいネタっっていうのはスラスラできます
布 川「何とかできて帰ったんですけど、やっぱり合体漫才も最初スラスラできたので、いいネタっていうのはスラスラできます。去年の敗者復活戦でやったネタもスラスラできた記憶があるので、本当にそうなんだなって思いました。まあ、いいネタなのか知らないですけど(笑)」
みちお「夜中3時ぐらいであんなに疲れていたはずなのに、これ作り出してから、マジで楽しかったんですよ。みんな笑い合いながらね?」
布 川「面白かったです」
みちお「あの瞬間が、本当にお笑いやっていて良かったなと思える瞬間でした」
M-1があったから、別の仕事もやれた
―ラストイヤーが終わりました。改めてM-1はどんなものでしたか
布 川「決勝に最初行くまでは、これに出て売れる、みたいな気持ちですけど、それ以降はM-1に出ていたおかげで、僕らは一応テレビでまだ粘れているのかなと思っています。それがなかったら、どんどん脳が退化していって、ダメになった可能性があると思っているので、それはM-1があったから、別の仕事もやれたと思う。全部M-1のおかげですかね。奇跡的に扇風機とルンバから何か来ないかな?(笑)」
みちお「M-1でお笑いがいいなと思ったきっかけだし、M-1に出ることで漫才も頑張れたし、M-1のおかげです。一番最初の志を持つきっかけ。自分の中では夢です」
―来年以降はネタとの向き合い方も変わりそうですか
布 川「そうですね。賞レースのための漫才ではなくなるので、そこのところがぐうたら。ちゃんと詰めるとかそういうのがぐうたらなので、そこのところはどうなのかなと思ったりしますけどね。よくチャンピオンの皆さんに聞くと、もう時間気にせずにやれるから楽しいよ、みたいに言うんですけど、本当にそうなのかな? と僕は思ったりしています。でも、単独ライブはいいものにしたいので、そういう意味ではちゃんと作る。しょっぱいネタはやりたくないです」
M-1とは「面白い」を更新していくこと
みちお「自分の思うM-1って、面白いを更新していく、というところがあったと思うので、それがなくなった途端、そういうことをしないっていうのは難しいと思う。面白いことを本当に追求して更新していく人生にしたいです。こんなやり方があったか、とか、こんな変なことで笑いにできるのか、って思い続けてやっていきたいです。(M-1が)なくなっても、そういう感じでやっていけたらいいですよね。競技漫才っぽくなくても許されるのはありがたいポイントではあるのかもな、と思ったり」
布 川「東京03さんが営業で一緒のときに、飯塚さんがよく序盤の方は袖で見ているんですよ。多分それってお客さんがどんな感じかを見ているんだと思うんですけど、ネタが結構違ったりするんです。いろんなところでやっているなと思ったり、ナイツさんも違うネタをやったりしていて、それをそのまま大きめの番組でも持って行っているので、そういう風にやっているんだ、と思ったら、そういうところでもちゃんとやった方がいいだろうなと思います。それをちゃんとやらないとススキノのエロい店に行ったときにね『この前あんまりだったよ』とか思われたら、サービスが薄くなるので。サービスを厚くするためにお笑いやっているところもあるので」
やってきたことが実った、その分悔しい一年
―2024年はどんな年になりましたか
布 川「いろんなジャンルをやらせてもらった気がしますね。去年の敗者復活戦でちょっと話題にしてもらって、それから前と違う仕事みたいなのも結構増えたと思います。単独ライブもすぐ完売しましたし。最初に決勝へ行けた年ぐらい、いろいろ違うことができて、良かったのかな」
みちお「決勝に行くことができたのはむちゃくちゃ嬉しい。(コンビを)組んでからM-1で優勝したくて、1回決勝に出たんですけどダメで、6年ぶりに出られた。一年通してネタを作ったり、単独ライブやって、このネタいいかもって言って、直しながらやって、その合間にいろんな仕事をさせてもらったりとか。結果的に決勝に出られて、やってきたことが実った一年だったんですかね。でも、その分悔しいな、って感じです」
キングオブコントで結果出す
―では、2025年はどんな年にしたいですか
布 川「一応、THE SECONDは出ないので、キングオブコントに出るつもりです。キングオブコントで結果を出したいですね。THE SECONDは北海道のすずらんさんにお任せして、M-1はハイロングっていう若手が札幌出身なので、ハイロングにお任せして。それかオズワルドに獲ってもらって。一応、昨年は僕らのどちらかが獲ったら、優勝賞金で韓国に行ってカジノに行こう、となっていた。僕らはもう獲れないので、オズワルドに獲ってもらって、カジノに行きたいです」
みちお「そうだね~。オズワルドに託そう」
布 川「それが一番の目標ですね。オズワルドとカジノ!」
みちお「ヤーレンズが獲ったら貸してもらおう」
布 川「楢原は独り身だから金いらないだろ。あいつ一生独り身ですから(笑)」
みちお「キングオブコントは北海道出身で優勝した人がいないと思うので、そこを目指していこう。この悔しさ、喪失感をバネに体をどんどん張っていこうかなと思います」
布 川「体?(笑)キングオブコントに出るのは3年ぶりになりますかね。この2年はM-1だけに集中しようという話になって。あと今年初めて単独ライブのツアーで北海道を最後にしたんですよ。共済ホール。今までで一番でかいところです。僕は札幌にいた頃に前説したことがあるんですよ。こんなでかいところで単独ライブは無理だよ、と思っていたんですよ。そこに20年経って、やっと単独ライブができるようになったので、20年越しで埋まっている景色が見たいですよね」
みちお「キャパが700人で、実質席を空けるのは60人ぐらいですか?」
布 川「少ねーな。路上でやれよ!」
みちお「他の60人以外の席にカニを置くんですよ」
布 川「金掛かるな」
みちお「そうか、もう解散したコンビの蟹パーティーのやり方か」
布 川「蟹パーティーって。新宿のライブハウスでね。金掛かるんだよ、それ!」
みちお「ごめんなさい、誰も分からないボケをしちゃいました(笑)。でも、北海道だからギリギリ行けるか。毛蟹で」
布 川「金掛かるよ~。640席に置くわけでしょ…、何の話だよ!」【おわり】
■プロフィール トム・ブラウン ツッコミの布川ひろき(1984年1月28日生まれ)と、ボケのみちお(84年12月29日生まれ)が組む漫才コンビ。ともに札幌市出身。2009年にコンビを結成し、芸能人やアニメのキャラクターを合体させる「合体漫才」という特異なネタで脚光を浴びた。「M-1グランプリ」の最高成績は18年、24年の決勝6位。ケイダッシュステージ所属。