基本的に、オフ期間中の監督、コーチは選手の指導を禁じられている。それでも、教え子の様子は気になるものなのだろう。山中潔２軍捕手インストラクターは連日のように鎌ケ谷に足を運び、遠くから選手たちに温かいまなざしを向けている。

　グラウンドを眺めていた山中インストラクターと、主に捕手について会話を交わしていると、田宮の姿が目に留まった。右肘クリーニング手術後の状態を気にしていたそうで、「普通に投げられていたね」と安心したような笑みを浮かべていた。

　 山中インストラクターには肘の状態以外にもう１つ、懸念があった。「去年、活躍して、いろいろな人が寄ってくる。うちの道具を使いませんか、とか、いろんな」。そこで、シーズン終了後に田宮を呼び出し、「今までお世話になったんだから、ミズノさんに不義理になるようなことはするなよ」と忠告をしたそうだ。

　しかし、田宮の返答は想定を超えていた。「山中コーチ、実はミズノさんとアンバサダー契約をさせてもらうことになりました」。ミズノのアンバサダーといえば、巨人の坂本、田中将、チームメートの宮西、山崎、伊藤らそうそうたるスター選手が並ぶ。「そ、そうか、良かったな、としか言えなかったよ」と自虐的な笑い話にしていたが、表情はうれしそうだった。

　２軍バッテリーコーチとなった２０２１年から、本格的に田宮を指導してきた。〝まな弟子〟は「ずっと一緒に練習してもらって、今でも気にしてもらっている」と感謝し、慕っている。どこまでスター街道を駆け上がったとしても、師弟の絆は変わらないだろう。