高校野球
2025/03/10 12:00 NEW

【10年前の忘れもの】⑥3月で勇退する寮監の井上悦子さん(68)選抜甲子園出場の東海大札幌高へ必勝エール

2004年春から21年間寮監を務め、3月で引退する井上悦子さん(前列右)=撮影・西川薫

「札幌望星塾」から送り出した生徒は1000人以上

 3月18日に阪神甲子園球場で開幕する選抜高校野球大会に東海大札幌高が10年ぶりに出場する。2016年春に東海大四から校名変更後は初。道新スポーツデジタルでは歴代のOBらから後輩への必勝エールを取材。「10年前の忘れもの」と題してお届けする。第6回は3月いっぱいで、運動部男子寮「札幌望星塾」の寮監を勇退する井上悦子さん(68)。2004年4月に寮監に就くと、2年前に病気で亡くなった夫・和久さんと二人三脚で毎年100人以上の寮生の生活面を支えてきた。これまでに巣立った生徒は1000人を超える。

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 寮生にとって第二の母は、毒舌とその裏にある愛情で、親しみを込めて「えっつ」と呼ばれている。子宝に恵まれなかった分「やっぱり、かわいいしかない。卒業生はみんな覚えてます」。1日に卒業した3年生が、続々と退寮の挨拶に訪れるが「一人二人で来たら泣いちゃうから、早く帰って、って(笑)」。寮監として最後の卒業生をしっかり最後まで見届ける。

前任者の退任を機に夫婦で住み込み

 座骨神経痛の悪化で3月で勇退することになったが、気付いたらあっというまの21年。当初は「絶対にやりたくなかった。男が百何十人もいるところなんか行きたくなかった」と振り返る。きっかけは、夫妻の甥っ子・加藤健太郎さん(39)が2001年、同校野球部に入部したことから。和久さんは追っかけとして3年間、夜間のトレーラー運転手の傍ら、カメラ片手に同校のグラウンドや球場に足繁く通った。加藤さんが卒業するタイミングで、当時の日下部憲和監督(72)から前任の寮監が辞めることを聞き、和久さんが「俺、やりたい」と宣言。悦子さんの反対を押し切って、2人が住み込みで寮監を務めることになった。

〝夜逃げ〟騒動数えきれず

 現在の寮は2016年に新築された5階建てで1人部屋だが、旧校舎にあった当時の寮は4人部屋。野球部を筆頭に、柔道部、剣道部、バレーボール部にバスケットボール部の生徒がひしめき合っていた。今だから笑い話として明かすことができる騒動は数えきれない。「朝起きたらいないのなんて、ざら」。ほかの寮生に聞くと「夜中に逃げたらしい」。後に家族と共に〝出頭〟してきた生徒に「今辞めたら、またイチからだよ」と諭したことも1度や2度ではなかった。

2016年に新築された東海大札幌高で唯一の運動部専用男子寮・札幌望星塾

 

夜中3時までドア開放してお悩み相談室

 24時間営業のお悩み相談室だった。「昔は理不尽なことが多かったから。おじさん(和久さん)は、いつも夜中の3時くらいまでドアを開けとくんです、誰が入ってきてもいいように」。泣きながら部屋に入ってくる子もいたという。野球部員が各大会でメンバー入りすると、目を輝かせて背番号を持ってくる。それを「うぜー」と悪態をつきながらユニホームに縫い付けるのも、井上さんの楽しみのひとつだった。

元寮生の寅威さん オリックスから移籍し和久さんと再会

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