宮西尚生の野球人生を変えた2024年2月3日 「あの日がなかったら、俺は間違いなく、ここにはいないね」
六回2死一塁、3番手で登板した宮西=撮影・桜田史宏
■パ・リーグ2回戦 ソフトバンク1―3日本ハム(4月2日、エスコンフィールド北海道)
自身の持つNPB記録を413ホールドに更新
6月に40歳を迎える日本ハムの宮西尚生投手が、まだまだ元気だ。今季は2年ぶりの開幕1軍を勝ち取り、3月30日の西武戦で初登板して1回を3者凡退に抑えた。2日のソフトバンク戦では1点リードの六回2死一塁からマウンドに上がり、谷川原を右飛に仕留めて1つ目のホールドをマーク。プロ1年目の2008年から続けてきた50試合登板が22年に途切れ、引退を考えた時期もあったが、自ら変化することで不死鳥のごとくよみがえった。
復活の鍵を握ったのが、昨季から多投しているチェンジアップ。チーム最年長左腕が、新たな武器を習得するターニングポイントとなった〝あの日〟を振り返る(取材は2月下旬)。
〝ダメもと〟で始めた新球習得
2024年2月3日。2軍キャンプメンバーだった宮西は、沖縄・国頭のブルペンにいた。身ぶり手ぶりを交えながら話す相手は、金子千尋2軍投手コーチ。現役時代に沢村賞も獲得したレジェンドから、〝伝家の宝刀〟チェンジアップの教えを受けていた。
直球とスライダーのコンビネーションで、数々の大記録を打ち立ててきた。それでもチェンジアップの習得を目指した最初の動機は、〝ダメもと〟だった。

【金子2軍投手コーチの〝魔法の言葉〟に「発想が全然、違った」】
「草野球で放ろうかな。それぐらいのレベル」
「あの時の心境は、もう最後やし、楽しもう、好きなことやろうということ。とっかかりなんて、ホンマに草野球でチェンジアップ放ろうかなという、それぐらいのレベル(笑)。草野球のためにチェンジアップでも覚えようかなというぐらいの感覚で入って、やっぱりじゃあ一回、試合でも放ってみようかなという感覚になり、みたいな。もちろんそのために練習はしましたけど、とっかかりなんてホンマにそれぐらいのもんやった」
今ではスライダーとともに不可欠な武器
草野球で投げるつもりが、今や日本最高峰の舞台で強打者たちを抑えまくっている。
「あの日のネコさん(金子コーチ)からの言葉、一言がなかったり、あの日がなかったら、俺は間違いなく、今ここにはおらんよね。あの日は間違いなく大きかった」
出会いに感謝し今を生きる
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続けて口を突いたのは、これまで出会った多くの先人たちへの感謝だった。
「ホンマに、俺は周りに恵まれている人間やと思っている。自分でもびっくりするぐらい。プロに入って大ベテランの人らの中に、一人ぽつんと大卒の自分がいて、という状況の時に、やっぱり当時の投手コーチ、厚(厚沢)さん(現オリックス投手コーチ)と、吉井さん(現ロッテ監督)とかがずっと親身になって支えてくれていたし、中嶋さん(前オリックス監督)も、大ベテランのキャッチャーだったのにルーキーの球を捕りに来てくれて。本当にそういうコーチとか、裏方さんとか、いろんな人との出会いが良かったから、ここまで来られている」
すべての巡り合わせがマッチし実現した〝金子塾〟
もちろん、金子コーチもその一人だ。
「ネコさんは、ずっと対戦相手として見ていたピッチャー。まさか、チェンジアップをコーチとして教わるとは思っていなかったし、本当に巡り合わせというか、タイミングも良かったし。これはまた、ネコさんが選手の時に、チェンジアップをこうやって放っているって話を聞いても、たぶん何も思っていなかったやろうし。やっぱり自分が置かれている立場、状況とか、あの時の自分の心境とか、すべてがマッチしたタイミングで、アドバイスをもらえたというところかな。すごく分かりやすかったし、それもネコさんの(選手を)見る能力やと思う。野球の知識だったり、今の野球のデータにすごい詳しい人やから。昔はそんなになかった数値とかも、アメリカで勉強したり、自分で勉強したりという人。数値だけ言われても、実際は選手って『だから何?』ってなんねんけど、ネコさんは選手としても経験していて、野球の、自分たちの感覚に照らし合わせて言ってくれる。やっぱりそれが今の時代のいいコーチやと思うし、そういう意味で、ネコさんという存在は大きかったよね。去年、キャンプは(2軍の)国頭スタートで、そこでネコさんに見てもらえたことというのは大きかった。あの日はデカかった。間違いないね。こればっかりは感謝。ネコさんだけにはもちろん限らないけど、やっぱりそういう(野球人生の)分岐点で、(良い方向に)変えてくれたのはネコさんのおかげ」
2024年2月3日、沖縄・国頭での春季キャンプ中、ブルペンで金子2軍投手コーチ(右)から助言をもらう宮西
迅速かつ分かりやすいレスポンス
金子コーチとは昨シーズン中も連絡を取り、大事なポイントで助言をもらってきた。
「ちょっと自分の中でチェンジアップの感覚が悪い時に、電話して聞いたりしていました。数値を見てくれて、すぐに(電話を)折り返してくれた。もう次の日も(1軍の)試合やから、ファームなんて朝早いのに、(試合に間に合うように)全部そういうのに対応してくれた。今年は(金子コーチのいる2軍キャンプの)国頭じゃなかったから、見てもらわれへんなと思って。でもこっち(1軍の名護)で数値を計って、それを見てほしいというのは、(キャンプに)集合した時にすぐに言った。それでずっと見てくれていて、一回(金子コーチが名護に)来た時に、全部こうこうこうでこう、とアドバイスをくれた。ずっと頼るのはあれやから、やっぱり自分で考えて、対応して、それでもどうしようもないという時に聞くと、すぐパンって返してくれる。ダメだよダメだよ、だけじゃなく、これは悪くないしっていうところも伝えてくれる」
狙うは16年以来の日本一
今年の目標は、ただ一つ。〝師匠〟と進化させてきたチェンジアップを駆使し、もう一度、日本一の感動を味わいにいく。
六回、しっかりと谷川原を打ち取り、ベンチに戻る宮西=宮永春希