エスコンのお膝元に純北海道産バットの生産拠点が誕生
エスコンをバックに道産バットを手にする、北ひろしま福祉会・上家所長、柴垣代表理事、同福祉会・高橋常務理事、バット職人・金野さん(右から)=撮影・西川薫
持続可能な野球界の実現へ
一般社団法人日本野球の杜(北広島)は、北海道産木材から加工した道産バットを、エスコンフィールド北海道の敷地に隣接する北ひろしま福祉会に委託生産するプロジェクトをスタートさせた。バット販売のほかにも、折れたバットの再利用や、使わなくなった用具を回収して、再加工した後に国内外の子供たちに提供するなど、社会貢献に興味を示す企業を巻き込み、持続可能な野球界の実現へ挑戦する。
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エスコンを横目に、工房内では最新鋭の機械で削られたバットを、この道22年の熟練バット職人・金野健司さん(49)が次々と仕上げていく。真新しいバットのほかにも、再生を待つ折れたバットが所狭しと並んでいる。すでに札幌南高にはダケカンバ材から作った〝魚雷バット〟を複数本提供。柴垣資治代表理事(55)によると「ここでしか手に入らないバットになっている」。魚雷モデルは2万7000円で、今後一般向けに通信販売を予定しているが、折れたバットを回収するなど理念を共有する学生には、特別価格を設定。自分だけのオンリーワンの1本を手にすることができる。
ホーネッツレディース監督の顔も持つ、バット職人の金野さん
特許取得した独自開発の乾燥機
品質には自信がある。小規模な工房内でバット製作を実現したのが、特許を取得した独自開発の乾燥機。「乾燥の仕方と能力が世界初です。よりハードになって、しなりもある」。柴垣さんによると、現在流通している木製バットの含水率は8~10%。この乾燥機では、3~5%を実現。「水分がすごく抜けて、固くなる。繊維がしっかり残っているので、木本来の強さを持ったバット作りができる。ダケカンバの能力を上げることができました」。かなりの手応えを持っている。
独自開発した木材乾燥機
きっかけは息子の一言だった。柴垣代表理事は日本ハムの応援グッズ「しゃけまる」のキーホルダーなどを製造する、タロウズ(株)の代表取締役社長。3年前、早稲田大硬式野球部の三男・敬太朗さん(22)から、廃棄するしかなかった折れたバットを「なんとかならないか」と活用法の相談を受けた。「じゃあグッズ化してファンの方々に買ってもらうことで、ファンもそれをもらったら嬉しいし、支援している、という気持ちが生まれる。実際に支援金があって何かが変わっていくと、子供たちも頑張る力になる」。発売が実現した。
プロジェクトに賛同する企業・団体はすでに…
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そこから2年前に道産バットを委託生産する事業を含む「~つなぐ・つながる~たすきプロジェクト『+気』」が始動。理念に共感した北ひろしま福祉会が受託生産を担うことになった。「我々はバットメーカーではなくて、これをやることで福祉を、一緒にやれる機会を得た」と、新たな雇用にもつながっている。用具のリサイクルには費用が発生するが「スポンサーが必要なので、ぜひそういう企業さんがいれば、一緒に北海道から発信していきましょう」と呼びかける。プロジェクトに賛同する企業・団体は、社会人チームや大学の強豪、自治体や大手企業など、道外も含めて25以上。北広島市で大きなうねりとして動き出そうとしている。
道産アオダモ→米国産メープル材→道産ダケカンバ?
道産バットの振興は、北大の加藤博之准教授らのグループが長年取り組んできた。かつては道産アオダモを加工したバットが国内野球界で主流だったが、資源が枯渇し、いまはアメリカ産メープル材がシェアの大半を占める。林産試験場などの研究で、道産ダケカンバは同じカンバ材でNPBやMLBで使用されているイエローバーチに特性が近いという結果が出ており、2019年には、加藤さんのグループが提供した道産ダケカンババットを、日本ハムの田中賢介さん(42)が現役最後の10試合で実際に使用したことでも知られる。
角材をバットに削り出す機械
野球道具の循環ができる環境になれば
バット販売は活動の一部。最終的には「小学校の野球が終わって硬式に行く子に軟式の用具を置いていってもらったり、高校に上がる、大学に上がる選手には古い道具をここに置いてもらうと、軟式から硬式に上がる子がここに取りに来て、それを使っていける環境にしたい」。エスコンを訪れたちびっこ野球少年少女たちが工房に立ち寄り、1本の木からバットができあがる工程を目を輝かせて見る。そしてそのバットを持ち、工房外の打撃ネットの向こう側に見えるエスコンに向かってフルスイングする。柴垣さんの頭の中には、そんな光景が浮かんでいる。
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