スピードスケート男子500㍍ 村上 滑り込み初五輪
■スピードスケート北京五輪代表選考会 第1日 29日、長野エムウェーブ
北京行きの最終切符は、国内最高記録保持者が手にした―。残り1枠を争った男子500メートルは、村上右磨(29、高堂建設)が34秒66で3位に入り初の五輪出場を確実にした。すでに代表入りを決めている森重航(専大3年、別海上風連中出)が1位、新浜立也(25、高崎健康福祉大職、釧商高出)が2位だった。女子は高木美帆(27、日体大職、帯南商高出)が、500メートルと3000メートルを制した。
遅咲きのスプリンターが、超ハイレベルな代表争いをものにした。男子500メートルの代表枠は、すでに確実としている新浜、森重の2枠を除き、残り1枠となっていた。あとは村上、松井大和(24、シリウス、鹿追高出)と、W杯優勝経験もある2人による事実上の一騎打ち。この日のレースの結果、国内記録保持者の村上が、若手有望株の松井を退けて北京五輪出場を確実にした。
「五輪の代表権を獲ることがこのレースで重要だった。それが達成できてうれしく思う」と村上。計り知れない重圧をはねのけ、安堵の表情を浮かべた。
想定外のアクシデントを乗り越えた。前の組の選手が転倒したことによりレース時間が遅れ、1度目のスタートでは自身がフライング。その影響もあってか、得意のロケットスタートは不発に終わった。それでも、残りの400メートルを全体3位のタイムで滑り抜けて表彰台は確保。最も高いレベルに設定されている派遣SS標準記録の34秒68もクリアしてみせた。
今季開幕前まで、この種目は2強とみられていた。村上は今年3月に国内最高記録をマークするなど、新浜と並び五輪出場を確実視されていた。しかし、10月の全日本距離別選手権(長野)で森重が2強を抑えて優勝。今月に入って、W杯では松井も初優勝を飾り、群雄割拠の状態となった。
若手が次々と頭角を現す中、村上はW杯開幕前の合宿中に転倒し、背中と左腕を合わせて7針縫った。第3戦終了時点で表彰台はゼロ。2018年の平昌五輪シーズン開幕前に、けがをした影響で出場を逃した4年前の出来事が頭をよぎったが「(当時とは)状況が違って、スピードもついてるし、体の調子は自信があったので必ず復活できると思っていた」。4年間で培ってきた実力と経験で苦境を乗り越え、五輪切符をつかみ取った。
約1カ月後に迫った大舞台。「初めての挑戦ですけど、ベストレースをすれば結果につながると思っている。もっと良い準備をして(五輪に)臨みたい」。視線の先にあるのは金メダル。本当の勝負はこれからだ。
■プロフィール
村上 右磨 (むらかみ・ゆうま) 1992年12月12日、帯広市生まれ。帯工高出身。北翔大を中退後は父が経営する村上電気管理事務所に勤務し、競技を継続。19年夏に高堂建設に入社した。16年全日本距離別選手権、19年W杯長野大会の500メートルでそれぞれ初優勝を果たした。177センチ、77キロ。
森重 リンク新で国内連勝
ゴール直後、森重は両手を突き上げて喜びを爆発させた。全日本距離別選手権に続く国内大会2連勝。リンク新記録をマークし「34秒50が出るとは思っていなかったのでびっくり。自己ベストも出たので、タイムは満足している」と喜んだ。
スタート後の100メートルは全体6位と出遅れた。それでも、中盤にかけて持ち味の加速力を発揮。残り400メートルを唯一、24秒台で滑り抜け、先行した同走の村上を終盤に差しきった。
昨季まで無名の存在だった21歳が、代表候補、表彰台候補、そして金メダル候補まで急成長。すでに確実としている北京五輪に向け、「日本人代表として悔いのないレースをしたい。もちろん金メダルを目指して頑張っていきたい」と力を込めた。
新浜 手応え2位
新浜はわずか0秒02差の2位となった。代表入りが決まっている状況で迎えたこの日のレース。惜しくも敗れはしたが「1000メートルのアップになれば良いと思っていた。思っていた以上にタイムが出たので、そこは収穫」と手応えを口にした。今季W杯で日本勢最多の2勝を挙げ、男子短距離のエースとして迎える北京五輪。「今の課題をさらに改善して、質を高めていけば金メダルが見えてくる」と話した。
松井 夢舞台届かず
松井はあと一歩及ばなかった。代表選考会独特の雰囲気に「吐きそうになるくらい緊張した」と、本来の滑りができず5位に沈んだ。3位の村上と0秒11差で悔し涙をのんだ松井は「力の差があった」と素直に負けを認めた。夢舞台には届かなかったが、まだ社会人2年目の24歳。「W杯最終戦もあるので、そこで力を出せるようにやっていきたい」と気持ちを切り替えていた。