「楽しかった9年間」Jリーグチェアマン就任目前の野々村芳和氏が語る
12日横浜M戦が札幌会長としてのラストゲームに
■単独インタビュー
株式会社コンサドーレの野々村芳和会長(49)が、“ラストゲーム”となるあす12日の横浜M戦を前に、道新スポーツの単独インタビューに応じた。2013年からの社長としての歩みを振り返るとともに、札幌を離れる心境、間もなく就任するJリーグ・チェアマンとしての抱負を語り尽くした。
亡き石水さんに社長を頼まれ「やろう」と決意
札幌を離れる時が、目前に迫っている。15日に行われるJリーグの総会と理事会を経て、正式にチェアマンに就任する。
「9年もいて、全てをそこに懸けてきた。難しい心境だが、自分の中では整理をつけている。振り返れば楽しかった。(故)石水さんに社長就任を頼まれた時、喜ぶサポーターや地域の人の顔が想像できたから、やろうと思った。喜んでくれた人がたくさんいたなら、良かった。昇格とか残留とか、それぞれうれしかったが、この仕事に終わりはない。ホッとする時間はなかった」
勝利に酔いしれる観客の笑顔が、クラブを前進させる活力になった。
「9年間で俺自身が得たものと言えば、1つ1つの勝利かな。毎回、試合後にグラウンドを回ってサポーターの顔を見るんだけど、あれはうれしいよ」
“新しい景色を見に行こう”と掲げ、19年にはルヴァン杯で準優勝。悲願まであと一歩だった。
「タイトル獲れないくらいが俺にはちょうどよかったのかな(笑)。もちろん見せたかった。石水さんだけではない。グラウンドにいつも来てくれていたおばちゃん、手紙をよくもらったサポーターの中には亡くなってしまった人もいるから。でもそんな簡単ではなかったね」
クラブの発展仲間に託す「絶え間ない努力を」
コンサドーレの発展は仲間に託す。前に進むには、その仲間を増やしていくことが大切と説く。
「勝ち負けももちろん大事だが、コンサドーレと生活を共にすることで、何かが豊かになったという人が少しずつ増えてきていると思う。そういう人たちを増やす努力を絶え間なく続けていけば、もっと本物のクラブになれる。勝ち負けで言えば、いかにクラブのサイズを上げられるか。他クラブのスピード以上で成長する必要がある」
“サッカーは一つの作品”という野々村会長にとって、サポーターの熱狂は大切なピース。再び大声援がスタジアムにこだまする未来を、Jリーグのトップとして模索する。
「コロナがこの規模になってしまえば、誰か一人が決断できることではない。でもサッカーという作品を元に戻す、より良いものにするために『声』は絶対に必要。難しいが、声を出しても大丈夫というエビデンスをリーグの中で積み上げていくことが必要になる。
野球など他のスポーツも満員にすることを目指しているが、『黙って満員』より『30%、半分に制限して声は出していい』という方が俺は良いと思っている。でも誰もそういう発想でスポーツを捉えていない。難しいのは分かっているけど、もしいつかそういう段階に来て、どっちを取りますかという局面が来るのなら、俺は『半分で声を出す』を取りたい」
あすの横浜M戦が、札幌に肩入れできる最後の試合。大事なゲームはリアルで見られず、車中で配信を見ていたこともあった。
「マリノスは今1位だし、この数年すごくいいサッカーをしている。9年前、あんな感じだった(自分たちの)クラブが、そことどう戦うのか。そういう楽しみ方で見ようと自分に言い聞かせている。車の中からではなく、なるべくスタジアムでね」
秋春制への移行が課題に「デメリット上回る、圧倒的な何かを」
次期チェアマンとして直面する課題の一つが、秋春制への移行だ。ACL(アジア・チャンピオンズ・リーグ)は23年から、欧州主要リーグに合わせた秋開幕への変更が決まっており、選手のコンディションの懸念などから、Jリーグも岐路に立たされている。
野々村会長は移行に中立的な立場を強調しながらも「サッカーには世の中を豊かにするために、何かのトリガーになるくらいの力があると思っている」と話す。「例えば『地域によって冬は寒くて見ていられない』というのなら、暖かいシートにしようとか、屋根の付いたスタジアムにしようとか。そうなれば寒いときにも見やすい社会に変わるんだから」と思考の一端を披露した。
「変えたことのデメリットを上回る、圧倒的な何かがなければいけない」とも続けた野々村会長。クラブの発展にまい進したように、日本サッカー界にとっての最適解を突き詰める。