5年目の田中が通算55試合目でプロ初勝利「ホッとしました」
■イースタン 日本ハム2-0ヤクルト(17日、鎌ケ谷)
3番手で3回0封「達が初勝利だと思っていた」
ようやく、長い長いトンネルを抜けた。高卒5年目の田中瑛斗投手(22)が、1、2軍通算55試合目の登板でプロ初勝利を手にした。2軍ヤクルト戦で2点リードの六回からマウンドに上がり、3回無失点。「試合が終わって、(五回に登板した)達が初勝利だと思っていたので、達にウイニングボールを渡しておめでとうって言ったら、(広報の)榎下さんが僕だと。それで実感しました。みんな盛り上がってくれてましたね。ずっとみんなに早く勝ってよって言われていたので、ホッとしました」と安堵の笑みがこぼれた。
振り返れば、理想とはほど遠い日々だった。大分・柳ケ浦高から、2017年ドラフト3位で入団。大きな期待を寄せられたが、5年間で1軍登板は1試合のみ。2年目の19年には2軍で0勝11敗を記録した。「すごい負けて、悔しかった。勝てそうな試合も、自分で崩して勝てなかった試合がたくさんあった」。追い打ちを掛けるように右肘の痛みに悩まされ、20年には手術を決断。「勝てないこと以上に、けがで野球ができない、投げられないのはつらかった」。昨季終了後に戦力外通告を受け、育成契約を結んだ。
野球人生のどん底で踏ん張り、苦しい時期を乗り越えられたのは、両親の支えがあったからだ。野球経験者だが、田中いわく「キャッチボールをした感じは全然上手くない」という父・精一さんからは、今でも登板の度に連絡が来て、アドバイスをもらうという。
「気持ちの面とか、言われますね。ちっちゃいときから僕のことを見ていて、顔でやっぱりある程度、気持ちが分かるらしいんですよ。『なよなよするな』とか、『ぶつけていくつもりで投げんか』って、親父も九州男児なので。『強気で』と、ずっと昔からいつも言われている。技術は教えられなくても、気持ちのところでずっと」
父の前で〝きっかけ〟の1勝「上で勝って、もっと感動してもらう」
うざったく思う日もあった。それでも、子を思う父の気持ちはしっかり伝わっていた。「毎試合毎試合言ってくるので、それがうるさかったりするんですけど、意外とこの中(球団内)で聞けない話を客観的にもらうので、気づけないところに気づけたり、力になったりする。感謝しています」と素直な気持ちを明かした。
プロで初めて白星を挙げたこの日、偶然にも精一さんが観戦に訪れていた。ヒーローインタビュー後には、スタンドの父にもマイクが向けられた。「おめでとうございます」と息子をたたえた後、「みなさん、ありがとうございます」と丁寧にファンへ感謝。鎌スタは温かい拍手につつまれた。田中は「DJチャス。さんが同じ大分出身で家が近所。だから振られたんだと思います」と内幕を明かしつつ「あとでウイニングボールを渡しに行きます」とはにかんだ。
鎌ケ谷での1勝はもちろん、通過点だ。「1、2年目ならいいかもしれないですけど、もう5年目なので、こんなところで喜んでいる場合じゃない。1勝をきっかけに、このまま続けて勝ち星を増やしていけたら」と次を見据えている。そして、父へ向け「次は先発でしっかりチームを勝たせる試合を見せたい。上(1軍)で勝って、もっと感動してもらいます」と誓った。今度は支配下復帰、そして1軍初勝利で、最高の親孝行をしてみせる。