【西川薫】高校球児の背番号に異変 改めて考える背番号の重み
春季大会限定でメンバー登録が18人から25人に
投手の公式戦1週間500球制限を極力回避
違和感であり、新鮮でもあった。5月16日まで行われた春季全道高校野球の各支部大会では、これまで18人だった登録メンバーが、25人に増えました。ベンチ入りは18人ですが、試合前のオーダー表交換まで、18人を選べます。道外では18人以上がベンチ入りできる都府県もありますが、登録メンバーの拡大は道内では初めて。コロナ禍の2020年夏の独自大会は、緊急的な措置として、ベンチ入り18人を毎試合入れ替えることが可能でした。日本高野連は今夏の甲子園につながる地方大会で、コロナ禍の救済措置として、試合開始前まで選手の入れ替えが可能とするガイドラインを発表しました。
今回の道高野連の試みは画期的です。背景には、例年と比べ支部大会が終わってから全道大会までの期間が短く1週間しかなかったこと。それに加えて、一昨年春から始まった投手の公式戦1週間500球の球数制限を可能な限り回避することができるよう、この春限定での採用となったということです。
支部大会期間中、複数の監督に話を聞いてみました。札光星の合坂真吾監督(45)は25人に枠が広がったことを「大歓迎」と肯定的な意見でした。札光星では大会直前に主力選手が負傷。初戦はベンチを外れましたが、2回戦当日の球場到着後、理学療法士の意見なども参考にベンチ入りの判断が下され、試合ではその選手が見事に勝利に貢献しました。合坂監督によると、大会前にベンチ入り18人が決まると、そこで一定の競争が終わり、「18人の中に緩みが生まれる」。25人の登録メンバーで毎試合入れ替えができるとなると、レギュラーメンバーには危機感が生まれ、控え組にとっては最後までアピールできるチャンスが生まれるといった相乗効果が生まれるといいます。さらに先発完投で疲れが残った投手がいれば、次の試合は入れ替えてフレッシュな選手を登録できるということなので、戦略的にも選手起用の選択肢が広がります。
戦力差の拡大懸念 大会後の検証が必要
一方で、戦力的に劣り、部員が18人に満たない高校との戦力差が、これまで以上に広がるという懸念もあります。来年以降はどうしていくのか、大会後にはしっかりとした検証が必要になってくるでしょう。現状は春のみですが、甲子園大会次第では、地方大会も追随していくことになります。そうなると、各校の選手選考のあり方にも変化が生まれるかもしれません。
さらに登録メンバーの拡大は、背番号の決定方法にも影響が出ています。高校野球では、主将が主力の場合、守備位置の番号か10番で、エースは1番。そして残りのレギュラーポジションに1桁の番号が与えられるのが一般的でした。記者も現役時代は、背番号をもらうことが憧れであり、目標でもありました。結果的には3年間スタンド組でしたが…。「背番号が19番まであればな~」などと、今でも仲間と酒を飲みながらボヤいています(笑)。ただ、それぐらい背番号というのは、球児にとっての目指すべき存在でもあるのです。
一塁手が「7」二塁手が「3」守備位置と異なる背番号
今回の支部予選では、北海は捕手の主将に1番。エースに18番を与えました。札光星も同様にエースは18番を背負ってマウンドに立ちました。北海は初戦のスタメンに背番号20番台の選手3人が名を連ね、さらに一塁手が「7」、二塁手が「3」など、9人の守備位置と背番号が一致する選手は1人もいませんでした。試合が始まる前から記者も?マークが何個も頭に浮かびました。試合後の平川敦監督(51)は多くを語りませんでしたが、大学野球を参考にしたのが一つの理由だといいます。さらに18番の後ろに単純に7人の控え組を並べても、選手としては、モチベーションの低下を招く可能性があり、それは避けたいという思いを感じました。その初戦には1年生3人がスタメン出場。試合後「このまま1年生が伸びていくか、2、3年生が奮起するか」と話した平川監督。夏を見据え、競争意識を高めるために試行錯誤した結果が、この春の背番号の意味だったようです。
もちろん、平川監督が背番号を軽視しているわけではありません。夏の甲子園全国最多39度の出場を誇る名門で、2016年夏に監督として初の準優勝。選手時代も1988年に投手として夏の甲子園に背番号「13」を背負って出場しています。北海では現在、選手の練習着の背中には、学年ごとのカラーで名前と背番号が入っていますが、背番号は21番からしか存在しません。番号が若ければ将来が有望だとかといった意味もないそうです。以前、1から18の背番号は特別だからだと平川監督から聞いたことがあります。そこからは、「背番号は厳しい競争を勝ち抜いたものにしか付けることが許されない」という、創部121年の長い歴史と伝統の中で受け継がれてきた背番号への強い思いがくみ取れます。
こうして背番号一つ取ってみても、そこに隠されたドラマは出場校の数だけあるはずです。5月23日、いよいよ春の全道大会が3年ぶりに有観客で開幕します。各支部予選を勝ち抜いた16校の選手たちの背番号にも思いを巡らせながら、北海道の頂点を目指す兵(つわもの)たちの春の陣に注目したいと思います。