高校野球
2022/12/09 21:00

来春こそ名寄支部悲願の甲子園へ 稚内大谷が20年ぶりセンバツ21世紀枠候補に選出

寒風の中、甲子園初出場を目指しランニングに励む稚内大谷ナイン

日本最北の野球部

 日本高野連は9日、来春の選抜甲子園21世紀枠の候補9校を発表した。唯一未公表だった北海道からは、秋季全道大会に出場した日本最北の野球部・稚内大谷が20年ぶり2度目の選出を受けた。同校初、名寄支部悲願の甲子園へ一歩前進。来春は記念大会のため、4校増の一般選考枠32校と明治神宮大会優勝校、21世紀枠3校を加えた全36校。発表は来年1月27日の予定。

過去4度は〝次点〟

 〝5度目の王手〟だ。北北海道大会3度の決勝はいずれも1点差のサヨナラ負け。前回候補となった2002年は2枠に入れなかったが、補欠校だった。2009年からコーチ、部長を経て、14年から指揮を執る本間敬三監督(38)は「非常に光栄。OBをはじめ、現役の部員たちは真面目に頑張っていれば、うれしいこともある。われわれの活動を見直すところはしっかりと見直して。身が引き締まる思い」と素直な感想を明かした。

 監督、部長で3度の準優勝全てをベンチで経験した山下優指導教諭(73)も喜びの声をあげた。現在は同校で進路アドバイザーを務める。「何よりも推薦してくれた道高野連に感謝です。過去の喜びと悲しみは稚内市民は全て受け止めてくれている。どうなるか? 前回は半信半疑だった」。来年、創立60周年の節目を迎える学校に甲子園初出場で花を添えられれば最高だ。

 道高野連の推薦理由の大きな要因は「困難な野球環境の克服と実績」。69年に野球部が創部。元々女子高のため、14年に移転するまで専用グラウンドはなかった。投手で高橋大空主将(2年)は「稚内特有の風の強さの中でのノック」が、練習する上で一番大変だったと言う。年間平均7メートル。風速10メートル以上が年間で90日間。市内に何カ所も風力発電所があるぐらいの風の街だ。当然、強風で防球ネットが倒れたり、ノック時にはキャッチャーフライが30メートル近く流されることも。

グラウンド使用は半年間

 さらに、冬の平均気温は氷点下10~14度だが、強風のため体感温度はさらに下がる。凍結のため、グラウンド使用は例年4月第2週から10月いっぱいの約半年間。冬は耳がちぎれそうな厳しい寒さの中、約100メートルのダッシュを30本走る、同校名物の〝雪上ダッシュ〟で体づくりをする。

 私立高だが、地域の受け皿の役割も果たしてきた。人口減や少子化のため、全盛期で21あった名寄支部の野球部は、この秋7校6チームにまで減少した。高橋桜太外野手ら2年生3人は、中学・高校に野球部がない利尻島出身。本間監督は「そういった子たちにも、高校野球をしっかりやらせてあげられるような一面も持ち合わせていることが、評価していただいた点なのかな」と話した。

 さらに、長い間行ってきた地域貢献も高く評価された。1982年から春の交通安全運動に合わせて、部員が稚内から浜頓別までをたすきで繋ぎながら啓発活動に協力。さらに、85年から毎年冬の期間、独居老人宅を除雪ボランティアで回っている。また、道高野連の取り組みとは別に、地域の少年野球や中学野球部を対象に野球教室を実施。高橋大主将は「今、野球人口が減ってる中で、小学生に野球の楽しさを伝えるのが、野球教室の中で一番の目的。次の日曜日にもありますけど、しっかり小学生に野球の楽しさを伝えたい」と、受け継がれてきた伝統を地域に還元する。

過去、私立校の選出は13年の土佐のみ

 この秋は、20校が出場した全道大会初戦の2回戦で4強入りした立命館慶祥に延長の末、惜しくも逆転サヨナラ負け。例年は公立校を中心に選考が進められてきたが、今年は5校全て初戦敗退。道高野連は「実績、地域性も加味して公立校に限定せず」2度目の候補校に選出した。過去、北海道から私立高が推薦されたのは03年の同校を含め、のべ3校4度で選出はなし。02年の鵡川から20年の帯広農(大会は中止)まで出場した4校全てが公立校だ。全国的にも私立校選出は13年の土佐(高知)のみと、ハードルは決して低くない。高橋大主将は「秋はエラーから失点につながってしまった。しっかり基本であるキャッチボールをまずチームで徹底する。日常生活をしっかり、いつも以上に気を使って過ごしていくことが大切」。残りの1カ月半、自分たちのやるべき事に集中して、運命の日を待つ。
 


■プロフィール
稚内大谷 北海道稚内市富岡1丁目1-1。平岡祥孝校長。1963年4月創立の私立校。69年4月に硬式野球部創部。78年秋に全道初出場。秋は全道4強入りが3度。89年春の全道大会で初優勝。夏の北北海道大会では、80年から2年連続、さらに93年と3度決勝進出も全て1点差で準優勝。2002年に選抜21世紀枠候補に選出も落選。全校生徒は男女258人。野球部は1、2年生28人。主なOBでは93年にヤクルトからドラフト6位でプロ入りした宇佐見康広さん(2000年に現役引退)。

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