来季は選手の新たな一面を引き出す 年末特別インタビュー連載《ミシャイズム再考》②
■年末特別インタビュー
就任5年目の北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督(65)のインタビュー連載「ミシャイズム再考」の第2回は、来季の戦い方について語る。
複数の役割こなすポリバレント性重視「選手の能力を高めていくような試みを」
ミシャ戦術に新たな要素は加わるのか―。「まあ何かはあるでしょう(笑)」と一瞬おどけて見せたが、すぐに表情は引き締まった。「キャンプでは、より選手のポリバレント性が増していくようなトレーニングをやるだろう。FWの選手が中盤になったり、中盤の選手がDFになったり、DFの選手がFWになったり。より選手が流動的に、どこでもできるようにもっていきたい。練習試合の時に、センターフォワード・岡村大八、トップ下・田中駿汰、そんなことがあり得るかもしれないし、駒井と深井が3バックをやっているかもしれない。攻撃的な選手がストッパーをやったら守備の能力が上がるだろうし、守備の選手が攻撃的なポジションをやったら攻撃の能力が上がるだろう。そうした選手の能力を高めていくような試みをしていきたい」と、選手たちの新たな一面を引き出すためのトレーニングをやっていくと明言した。
今季の試合を振り返ると、終盤に攻撃的な選手を投入するあまり、普段は3トップのシャドーで出場することが多いMF青木やMFシャビエルといった攻撃的な選手が中盤のボランチを務めなくてはいけないということもあった。そのような状況になっても、選手のポリバレント性が上がり、ある程度の計算ができるようになれば、いろいろなパターンでの交代がより多く見られるようになるだろう。さらにそこで新たな才能が開花する選手が出てくるかもしれない。可能性は無限大だ。来季の開幕戦では意外な選手が、意外なポジションでピッチに立っているかもしれない。
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主力の移籍で苦心「選手が成長できる場だという魅力を感じてもらえるように」
これまで積み上げてきたものがあるからこそのチャレンジだ。「札幌は特別な戦い方をしている。それぞれの選手がそれぞれの役割をしっかりと全うする中で、チームがうまく機能すれば結果が出る」。このオフ、MF高嶺が柏に移籍したように主力が抜けてはチームの上積みは難しくなる。新たな選手が入って来てもミシャ戦術に慣れるまでの時間が必要となるためだ。主力の引き留めにクラブは努力し、指揮官も「ここ(札幌)は選手が成長できる場だという魅力を感じてもらえるように指導しているが、予算の大きさという部分で難しい部分があるのも事実だ」。
過去にもFW鈴木武蔵、A・ロペス、MFチャナティップといった主力が札幌から離れた。今季、鈴木がベルギーのクラブから日本に戻って来た際も、「我々も戻ってきてほしいというオファーを出したし、三上さん(GM)も彼を札幌に戻すための最大限の努力と誠意というのを見せた。ただ、ガンバ大阪からもらっていた彼へのオファーというのは、我々には到底、太刀打ちできないような金額だった。私は間接的に『札幌に戻って来ればあなたは必ず活躍できる。そして11月のカタールのメンバーにあなたは必ず入れるはずだ』と伝えた。札幌で良いプレーをして結果を残していけば、W杯という彼が目指した〝チケット〟も得られたはずだ。ただ、お金は少ない。しかし、もし世界中で見られているW杯で活躍したら、もっといいオファーが来て、もっといい金額を彼は得られたかもしれない」と嘆く。
6年目の覚悟「私が去った後も、後を引き継ぎ、長く繁栄してくれれば」
戦術の流行が目まぐるしく変化する現代サッカーにおいて、一人の監督が長期間、同じチームを指揮することは世界的にも珍しくなってきてた中で、来季は就任6年目を迎える。ともに6シーズン指揮した広島、浦和時代を引き合いに出し、「広島、浦和での傾向からみると、23年が最後じゃないかと思われがちだが(笑)」とジョークも口にする。しかし、「私が去った後も、その後を引き継ぎ、長く繁栄していってくれれば。そういう仕事を常に私はしたいと思っている」と、クラブの将来を見据え、そういう覚悟で今できる自分の仕事に向き合っている。
常に世界のサッカーにアンテナを張り巡らし、自身の戦術をアップデートし続けている。監督就任後、それまでは堅守速攻のスタイルだった札幌に攻撃的サッカーを植え付け、18、19年とクラブを躍進させた。それでも指揮官は、その戦術に固執することなく、20年には「オールコートマンツーマン」を導入。常に札幌を一段上の高みに導くべく、貪欲に新たな挑戦を続けている。「W杯もしっかり参考にしていかなければならない。トップレベルのサッカーはどちらの方向に向いているのか。その方向性を見極めたい」。日本代表を含め、様々な戦い方のスタイルが見られた今回のW杯を見て何を感じ、考え、来季、何をチームにもたらすのか。
次回はその根底にあるミシャの哲学について掘り下げたい。