【西川薫】けがと戦うアスリートの姿に勇気をもらう
記者の場合、取材でけがの箇所で多く耳にするのが「前十字靱帯断裂」と「半月板損傷」です。靱帯は血流が乏しく、特に前十字靱帯は自然治癒が難しく、手術前のパフォーマンスを取り戻すのには時間がかかる大けがです。特にプロスポーツ選手となれば人生を左右しかねません。記者も過去に左膝前十字靱帯と内側側副靱帯の断裂を経験しただけに、復活にかけるアスリートの姿には特に心を打たれます。
4度の靱帯断裂から復活目指す深井一希
2月4日まで行われていた北海道コンサドーレ札幌の沖縄キャンプでは、ピッチ外周を黙々とジョギングするMF深井一希選手(27)の姿がありました。深井選手は、昨年9月に右膝の前十字靱帯を断裂。今回でなんと、左右合わせて4度目。4日の沖縄最終日に状態を聞くと「順調といえば順調。4月ぐらいにできればいいかな」と一歩一歩進んでいるようです。靱帯の再建手術は、他の場所から腱を移植するのが一般的で、今回は右の膝蓋腱。もう移植する腱はないのでは?との疑問に「あと2個あるので、2回はできます」と言葉が返ってくるほど表情は明るかったです。前十字靱帯は英語の略称で「ACL」。チームが出場を目指すアジアチャンピオンズリーグ(ACL)に「不屈の男」の存在は不可欠だと勝手に思い込んでいます。
5度の靱帯移植手術から復活表彰台に上がった原田侑武
また、高校時代を含め5度の前十字靱帯移植手術を乗り越え、今年1月のジャンプW杯札幌大会に4季ぶりに出場した雪印メグミルクスキー部の原田侑武選手(32)の復活にも元気をもらいました。2020年1月のHBC杯で2位に入った際に着地で右膝前十字靱帯を断裂。病院を変えるなど3度の手術を乗り越え21年シーズンに復帰を果たしましたが、今度は練習中に左膝の前十字靱帯を断裂。一時は「なぜ自分だけ」と苦悩することもあったそうです。その原田選手が1月28日のTVh杯で、大けがを負ったHBC杯以来3年ぶりに2位表彰台に上がりました。残念ながら、その瞬間には立ち会えませんでしたが、「心からおめでとうございます」と伝えたい。まだまだ続く競技人生、今度は表彰台の一番高いところに上がる姿を見せて欲しいです。
治療を支える理学療法士やトレーナーの存在
けがをしたアスリートたちを、近くで支えているのが理学療法士やトレーナーの存在。記者が通ったリハビリ施設には、夕方になると高校名が入ったバッグを抱えたジャージ姿の選手たちが続々と訪れます。復帰を目指してつらくて地味なリハビリに取り組んだり、筋トレに励んでいます。記者を担当した方は、昨年12月のウインターカップ全国高校バスケットボール選手権で女子準優勝した札幌山の手にトレーナーとして帯同。試合中はベンチ脇に待機し、選手が負傷するとすぐにテーピングを施し再びコートに送り出す。そして勝利の瞬間には、選手と一緒になって喜びを分かちあう姿に自然と笑みがこぼれました。
復活までには、自由に動かない自分の体と向き合い、不安や途切れそうになる心を押し殺し、懸命にリハビリに取り組んできた苦しみがあるはず。復活を遂げた選手たちの言葉を通じて、いまもリハビリに励む多くのアスリートに勇気や希望を持ってもらいたいと思います。