【道スポ評論家が直撃】⑤上沢直之 メジャー挑戦を決断 なぜ今オフか? 1年勝負の真意は?~開幕前特別企画~
エースの責任、苦悩を知るガンちゃんが上沢の〝内角〟を攻めまくり
日本ハムOBで道新スポーツ評論家の岩本勉氏(51)と鶴岡慎也氏(41)が沖縄・名護で春季キャンプを行う選手たちの本音に迫る特別企画。最終第5回は、ドラフト6位で入団し、叩き上げでエースへと上り詰めた上沢直之投手(29)が登場。昨オフの契約更改では米大リーグ挑戦の意思を表明した。なぜ、このタイミングだったのか―。決断の裏にある強い信念とは―。エースの責任、苦悩を知る岩本氏が直撃した。
岩本氏(以下、岩)「直球インタビュー、よろしくお願いします。メジャー挑戦の決断について聞きたい。29歳。なぜ、このタイミング?」
上沢(以下、上)「僕はそもそも、入団した時からアメリカへ行きたいという希望はなかったです。大きなケガもあって、日本のプロ野球でしっかりと成績を残すことしか考えていませんでした」
岩「なぜ急に」
上「日米野球に出たあたりで、少しアメリカの野球、海外の野球が気になりだしました。あとはファイターズに来ている外国人選手と話すうちに、自分が外国人選手として野球をするのは、どんな感じなんだろう?と想像するようになりました。僕らは外国人選手として彼らを見ているけど、僕が向こうへ行ったら外国人選手としてやらなければいけない」
岩「不思議な感覚やね」
上「野球だけじゃなくて生きていく上で、人生の中で、すごく大事な学びがあるのではないかなと」
今季目標は180イニング&防御率2・50以下
岩「僕も全く同じ感覚で野球留学へ行った。昔、ファイターズはヤンキースと業務提携していたから。うちにはマット・ウインタースとかいたけど、どんな感じやろ?と思って行ったら、これまた仰天。外国人扱いされない。アメリカでは」
上「移民の国ですもんね」
岩「そう。枠がないからみんな外国人。ただアジアから来た、というだけ。1990年代前半はちょっと珍しがられたけど、今なら、おまえも日本から来たのか―という感じだと思う。球団にポスティングを容認してもらうためにも、今シーズンはどんな成績を」
上「吉村さん(チーム統括本部長)とか、球団の方と話をして、いろんな方に応援してもらえるような成績で行くのが一番良いと。今まで以上に長いイニングを投げて、防御率とか、全ての成績において一番良い成績を残して行きたいです」
岩「キャリアハイ。具体的には何イニング?」
上「180イニングは去年からずっと言っています。防御率は2・5以下」
元F戦士のメジャーリーガーからも刺激 ダルビッシュや大谷ら
岩「スーパーな成績だね」
上「そうなれば、勝ち星もおのずと付いてくると思っています」
岩「打線との兼ね合いはあるけど、15勝以上は見込める。球団の容認をもらってアメリカへ行くという選択に至る過程で、ファイターズからメジャーに移籍したダルビッシュ、大谷、有原の影響はあった?」
上「ダルビッシュさんはかぶっていないですけど、3人がアメリカで投げる姿をニュースとか中継で見る機会が増えたのは、一つのきっかけかなと思います」
岩「今や世界一。ダルビッシュの投手能力は。世界一勢いのある選手は、大谷かもしれない。身近な選手だからね」
上「同じ球団に所属していた先輩と、一つ年下の後輩。(メジャーに)だんだんと興味が湧いてきました」
来年節目の30歳 「全盛期に行ってしっかり勝負したい」
岩「身近で成功している選手がいれば、『俺だって』と思うのは当然のこと。その意思を表明した時に、今年ダメだったら諦める、勝負の1年になると。1年勝負にこだわるのは、なぜ?」
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上「僕の中で年齢的な部分が大きいです。来年30歳。30歳を超えてから(移籍)となると、年齢的なものは大きな問題になります」
岩「建山コーチ(35歳でメジャーに挑戦)を見ていると最後に線香花火がビビビッと光るところで行った」
上「だからこそ、建山さんはすごいと思います」
岩「上沢投手の精神力ならそれも可能では?」
上「できるなら若いうちに行っておきたいです。全盛期に行ってしっかり勝負したい。学べるものはすごくあると思います。それから先のキャリアがズタボロになっても後悔することはないです。あとは、自分の中で腹をくくって1年と決めて挑戦した方が良いと思いました。期限を設けることで、ケジメがつけられるのではないかなと。『今年ダメだったのでもう一回来年もやります』は、何だか違うんじゃないかなと。それも縁。今年頑張っても行けなかったら、縁がなかったんだなということです。行く運命だったら、きっと行けると思っています」
プロ12年目の今年は新球場元年 調整は順調
岩「引きずらない材料も用意して、満を持してチャレンジするために今年1年間、頑張ると」
上「そういう気持ちでいます」
岩「チームに残すものがないと自分も周りも納得できない」
上「優勝したいです。僕は在籍しているけど、優勝に貢献したシーズンが1度もない。しっかり貢献したい」
岩「現在の仕上がり具合はどう?」
上「順調に来ていると思います。やりたいこともできている。今までとは違う感覚で投げられています」
新球にも挑戦 岩本「試す球とチェックする球を分けている。大したもの」
岩「大したものだなと思うのは、試す球とチェックする球をしっかり分けている。既存のパワーカーブだったり、持っている変化球とストレートの軌道はチェックでしょ。(新球の)スラッターは試したい感じだね。完成度は」
上「割と良さそうです。打席に立った選手に聞いたら『あれは邪魔なボールになってくる』と言われました」
岩「スラッターということは横滑り?」
上「横滑りでちょっと斜めに落ちます。真横というよりは」
岩「切り球?曲げ球?」
上「切り球ですね。曲げようというイメージはないです。打者の反応がどうなのか?というところが気になります」
岩「それはとても大事。今は頭で理解しようとしすぎる投手もいる。実際の反応を度外視して。上沢投手は違う。打者の反応をよく見ている。それを理解して成長している」
オフシーズンにデータを猛勉強 打者の反応とすり合わせ
上「データもオフシーズンにすごく勉強しましたが、結局、打者がどう感じるかが一番大事。打者が打てないボールを投げられたら、データが悪くても別にいいです。打者の反応が分かった上で、どういう時が悪い時なのか、データとすり合わせます」
岩「対戦データではなくて自分の投球データ」
上「そうですね。自分の中で分かるだけでもいいかなと思います」
岩「実戦で得たものは今、武器になっているでしょ?」
上「長くやっていると、投げた感じでこういうボールは前に飛ぶとか、ファウルになるとか空振りになるとか、指先、体の感覚と打者の反応が合ってきているように感じます。自分が良くないなと思ったボールは前へ飛ばされますね」
危機回避能力を絶賛 岩本「切り替えが上手な投手」
岩「危機回避の術を引き出しから探し出すでしょ。それをたくさん持っているよね。その辺の切り替えが上手な投手だなとずっと思っていた」
上「逃げ道はつくっておきたいですね。1つ良い球があっても、それがダメな日はどうするんだ、という話になります」
岩「それがダメで全部壊れる人もいる」
上「そうなりたくない。いろいろな球種に取り組むのは、そういう理由があります」
開幕投手は加藤貴 上沢「成績を残した人が選ばれて投げるべき」
岩「今年は早々に開幕投手が加藤貴に決まった。言われた時の率直な気持ちは? エースと呼ばれる存在として」
上「ふるいにかけられた年に成績を残せなかったので、率直に仕方ないなと思いました。成績を残せなかった僕が悪い。投げたかった思いはありますけど、成績を残した人が選ばれて投げるべきだと思います」
岩「その一言が聞きたかった。投げたい思いはあったと。確認ができて僕は納得。ところで、初めて会った時は覚えている? 入団した年の国頭。言い方は悪いけど、かわいい顔をして来たから、バイト君かなと思った(笑)。そこからファームで頑張って。マリンで雨の日に完封した試合があったよね?」
上「あれは2018年(5月23日)ですね。2対0で八回終わりに雨天コールドになった気がします。一応、完投したことになりました」
岩「あのロースコアでいつ継投に入るかと思ったけど、ほかに対応できる投手がいなかった。よう投げたなって。エース上沢が誕生したと思った試合」
上「すごい雨でしたね。(当時投手コーチの)吉井さんがマウンドにバスタオルを持ってきましたから(笑)。そんな試合あるか?と思いながら投げました」
上沢「最後にみんなで笑って終わりたい」 岩本「さらなる飛躍を期待しています」
岩「乗り越えている数々のシーンが素晴らしい。もう12年目。どんなシーズンにする?」
上「去年は自分の中でいろんなことがうまくいかなかったシーズン。今年は僕が投げたら『このカードはあいつが長いイニングを投げて、あとは強い中継ぎをつぎ込める』と思ってもらえたらうれしいです。まずは1年間安定した成績で長いイニングを投げる。先発投手として良い数字を残し、最後にみんなで笑って終わりたい。そこから自分の夢が具現化できるようにしたいです」
岩「さすが。理屈は筋が通っているし、現実を大切にしている。頭の良い選手。さらなる飛躍を期待しています」