「寸止め」で戦うマスボクシング 札幌清拳ジム田中康行会長「けがなく楽しめる。もっと普及してくれたらうれしい」
2021年に正式競技化、全国大会も2度
「寸止め」ボクシングの魅力とは―。相手にパンチを当てることのない「マスボクシング」が、徐々に注目を集めている。元々はボクシングの練習メニューの一つだったが、2021年に正式競技化され、すでに全国大会も2度開催。昨年の全日本マスボクシング選手権大会では、札幌清拳ジム会長の田中康行会長(47)や橋本優作さん(21)などの同ジム所属の5選手が優勝。田中会長は「けがなく楽しめる」と笑顔を見せた。
顔が腫れることはない。ボクシングは痛みや恐怖というイメージが付きまとうが、パンチを相手の前で寸止めするマスボクシングは、打撃することがないので、負傷の心配は少ない。同ジムでは、7歳の子供もマスボクシングに取り組んでいる。田中会長も「いろんな方に体験してもらって、こんな楽しいことがあるんですよって知ってもらいたい」と話した。恐怖心なく老若男女で楽しめるのが、大きなメリットだ。
元ボクサーの田中会長も選手として復帰
田中会長は元々ボクシングの選手だったが、首のけがで競技を断念し指導者となった。しかし、マスボクシングが競技化し、同ジムの選手たちがリングで躍動している姿を目にすると、闘志に火が付いた。「この競技はおもしろいなと思った」と、1年期限で選手としてトレーニングを再開。
「ボクシングは相手を詰めていって勝負を掛けられるけど、マスボクシングは逆。そこまで行ってしまうと審判に止められる。ある一定の距離感をしっかり保ちながら、見せていかないといけない」。ボクシングとのギャップにとまどいながらも、優勝という結果を残し、約束通りに第一線から退いた。
目まぐるしい展開、スピード感も魅力
寸止めしたパンチに対して、しっかりとガードが入っているか―。そういった部分を審判が判断し、勝敗が決まる。田中会長は審判も兼ねており「ターゲットエリアと呼ばれるところにしっかりとしたパンチが入ったときにポイントが入る」と説明した。クリンチなどもない分、展開は目まぐるしいものとなる。試合が止まることのないスピード感も一つの面白さだ。
同ジムには実力者が揃う。21年のU30(18~30歳)、昨年のエリート(18~45歳)男子の部で連覇中の橋本さんはスピードを生かした攻撃が持ち味。田中会長も「圧倒的に速い。スピードはマスボクシングで重要になってくる要素」と舌を巻く。昨年のU―60(46~60歳)女子の部で2位となった藤田映子さん(56)はバランスのいいボクサー。「去年は連勝リレーで来て、私で途絶えさせてしまったので、リベンジできたら」と意気込みを見せた。
ボクササイズとして始める人も
認知度がさらに高まり、世界まで波及させていくことが田中会長の夢。「もっと普及して、いつかは世界大会なんかもできて、もっと大きな大会になってくれたらうれしい」。ボクササイズの一つとして、始める人も多いという。誰もが始められるマスボクシング。可能性は広がるばかりだ。
■マスボクシングとは お互いのパンチの距離が当たらない位置で、実戦の試合をイメージして寸止めでパンチを打ちあう競技。全日本マスボクシング選手権大会では小学1年生から71歳以上まで、年齢や性別、身長で階級が分けられる。予選1分30秒1ラウンド、決勝は同2ラウンドの3人制ジャッジで行う。採点は正しいパンチ動作で当たったと審判が判断した数がカウントされる。正しいガードがあれば、カウントはされない。必ず優劣を付ける10ポイントマストシステムおよび加点方式。