二刀流ルーキー矢沢 デビュー即初安打「野球をやっていて幸せだなと感じた」
■パ・リーグ2回戦 楽天3ー4日本ハム(4月1日、エスコンフィールド北海道)
新庄監督も高評価のバットコントロール 「すごいヒット打ちますよね」
デビュー戦で見せた不思議打法! 日本ハムのドラフト1位ルーキー・矢沢宏太投手兼外野手(22)が1日、エスコンフィールド北海道で行われた楽天との開幕2戦目に「1番・右翼」で先発し、プロ初出場を果たした。これまで野球で緊張したことがないという二刀流ルーキーは、この日も「(普段と)変わることなくやれた」と強心臓ぶりを発揮。一回の初打席は一邪飛に倒れたが、三回の第2打席で早速プロ初安打をマークした。
楽天の先発・滝中にカウント1-2追い込まれながら、低めのカーブに反応。体勢を崩されながら、華麗なバットコントロールで中前に運んだ。デビュー即結果を出したドラ1に、新庄監督は「良かった良かった。なんか、すごいヒット打ちますよね。いやー、もうなんか本当に不思議。その不思議さをどう出してくれるかっていうところに期待」と評価。指揮官の「1番」起用に応えた矢沢は「僕のヒットは変な形が多い」と笑い、「全球種を待ちながら、良い反応ができたかなと思います」と胸を張った。
七回の勝ち越しチャンスで代打に今川 目指すは信頼される強打者
3月31日の打撃練習中に、新庄監督から「あした1番ライトでいくよ」と告げられた。同30日の開幕戦では出番がなく「チャンスだ、絶対1本打ってやろう」と気合を入れて臨んだ一戦だった。エンドランのサインで盗塁死はあったものの、3打数1安打と上々発進だ。
チームはサヨナラを決め、新球場初勝利。歓喜の輪に加わり、めでたいづくしの一日となったが、心残りもある。「とりあえず1本出て良かったですけど、(同点の七回1死三塁で迎えた)4打席目に、ここで打ったらヒーローだって時に今川さん(と交代)だったので、悔しかったです」。目指すは、もっともっと信頼される強打者。「1年間かけて、そういうところで代打を送られない存在になりたい」と成長を誓った。
子どもの頃から身体能力抜群 恩師の脳裏に焼き付く勝負勘
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小さい頃から運動神経抜群だった。町田市立忠生中学校では、50メートル走はもちろん学年1位。さらに水泳のクロール25メートルでも同1位。3年間担任だった青木洋教諭(44)は「野球をやっている子はだいたい他に苦手な競技があったりするんですけど、彼にはそれがなかった。柔道でも活躍していた」と舌を巻く。
身体能力だけでなく、頭も良かった。中3の時、体育大会でクラス対抗リレーのメンバー4人に選出された。通常は最も足が速い生徒がアンカーを務めるが、矢沢はあえて1番手を選んだ。スタートからぶっちぎりのトップに立ち、他クラスを焦らせる作戦は完璧にハマり、ライバルたちはバトンミスなどを連発。先行逃げ切りで圧勝して笑う姿を、青木教諭は今でも鮮明に覚えているという。
先見の明はアマ時代から 優しさも兼ね備えたスター候補
高校への進学も、矢沢なりの〝計算〟があった。東京・町田出身で、都内の有名校から誘いもあったが、あえて神奈川・藤嶺藤沢高を選択。周囲からは「なんで神奈川なの? 東京なら西と東が分かれていて、神奈川より甲子園に出られる可能性があるのでは?」と聞かれたが、「自分が高3の時は、ちょうど100回記念大会だから、神奈川も2つに分かれる」と即答。3年夏は南神奈川ベスト8で終わり、ドラフトにもかからなかったが、常に先を見据えて考えながら成長を続けてきた。
そして、心は優しい。昨年12月、初めて青木教諭と酒を酌み交わす約束をした矢沢は当日、決まったばかりの背番号「12」のユニホーム型キーホルダーを3つ持参した。日体大の試合を観戦に訪れた先生が、夫人と子どもを連れていたことを覚えていたからだ。「奥さんとお子さんにもどうぞ」とプレゼントされた恩師は「うれしいですよね。昔から周りに気を遣える子だった」と目尻を下げた。
野球を目いっぱい楽しんだプロデビュー戦 さらなる飛躍へ心機一転
今年の正月には、地元・町田でお墓参りをした。「何も祈らず、報告もしませんでした。ただ、手を合わせただけ」。天国の父・明夫さんが空から見守る中で打った初安打の記念球は、誰よりも応援してくれている母・香さんに贈るつもりだ。「きょうは試合展開的にもすごく楽しく野球ができました。こんなにも1勝することが楽しいんだなと思いました。野球をやっていて幸せだなと感じた一日でした」。これからさらに心技体を磨き、育ててくれた両親への感謝の思いを胸に、北の大地で野球の楽しさを体現する。