200盗塁達成の中島卓也 積み重ねてきた努力とは 本人とスコアラーが明かすルーティン
■パ・リーグ21回戦 日本ハムー楽天(9月22日、楽天モバイルパーク宮城)
わずか3秒間のスリリングな攻防 努力の積み重ねで到達した大台
約3秒の争いを制するため、膨大な時間を費やしてきた。日本ハムの中島卓也内野手(32)が22日の楽天戦(楽天モバイルパーク宮城)で通算200盗塁を達成した。快記録の裏側には、日の当たらない場所で取り組み続けた一つの習慣があった。ビデオコーディネーター兼スコアラー補佐の関口雄大氏(38)と本人が、若き日から積み重ねた努力の一端を明かす。
投手がクイックで投げ、捕手のミットに届くまでに約1.25秒。捕手の二塁送球が野手に届くまでは約2.1秒、野手が走者にタッチするのに約0.2秒を要するといわれる。およそ3.5秒間のせめぎ合いを制さなければ、盗塁は成立しない。失敗すれば好機がしぼむプレッシャーと戦いながら、1%でも成功率を高めようと〝予習〟を行ってきた。
情報、ツールにあふれる現代 走塁練習にも変化
簡単に情報が得られ、どこでも映像が見られる今、走塁練習の方法は大きく進化した。試合前練習中には投手と一塁ベースを結ぶライン上にモニターが設置され、対戦が予定されている相手投手の映像が流される。走者は投球動作を見ながら帰塁やスタート練習を繰り返す。より実戦に近いメニューが、日常的に取り入れられている。
自宅や移動中であってもiPadなどを用いれば「検索すると数回のタップで見たい球団、投手の映像が見られます」と関口さんは説明する。しかし、中島が1軍に定着した2012年は環境が大きく異なった。
資料室で映像に目を凝らした日々 「微妙な癖や動きが分かってくる」
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中島は「昔は映像が今より少なかった。資料室でしかビデオを見られないので、早めに球場へ行って一塁走者目線の映像があれば見て、それがなければ正面からの映像を見た。どういうタイミングで投げるのか、どんなセットポジションなのかを確認していた」と当時の記憶を思い返す。
プロ野球ではカード初戦の前にチームでミーティングを行うのが通例となっている。主に相手先発の映像を用いて行われるスコアラーの講義が、より有意義なものになるよう、中島はミーティングに先んじて一人で資料室にこもるようになった。「初対戦の投手はまず、けん制が速いのか遅いのかを見る。ボヤーっと見ていたらホームへ投げるのと、けん制の時の違いが見えてくる。先に足や肩が動く投手もいる。微妙な癖や動きがだんだんと分かってくる」。約30分、画面とにらめっこし再生と巻き戻しを繰り返した。
努力を知る関口スコアラー 「準備があって能力があるから走ることができる」
関口さんは「(中島は)投げる可能性がある投手は全員見ていたと思う。試合の後半から出場することもあるから『行け』と言われてからでは遅い。カウントごとに出る投手の特徴や、目の付け所をずっと考えていた。勘だけで走る、能力だけで走るのとは違う。準備があって能力があるから走ることができる」と愚直な取り組みに敬意を表した。
プロ15年目の32歳 まだまだ次の塁を求め続ける
積み上げた偉大な数字について、中島は「こだわりはないけど、もっと早く達成したかった。試合に出られなかったり、塁に出られなかったりした時期があったから」と決して誇ろうとしない。それでも、取り組み続けた習慣には一抹のプライドをのぞかせる。
「(現楽天の西川)遥輝の方が足が速かったし、今だって五十幡や矢沢に比べて僕は劣る。だからスタート、中間走、スライディングでカバーしてきた。どれだけ準備してもスタートが切れないこともあるけど、やれることはやっておこうと思っていた。僕はホームランを打てる選手ではないから、小技で生きていこうとずっと考えてきた。投手の雰囲気を感じて配球を読んだり…。そうやって積み重ねた経験があるから『年を取って衰えたから走れない』とは、まだ感じていない」