延長十回あと1球から逆転サヨナラ被弾 遠軽・葛西188球の力投悔し 北海撃破ならず
■春季全道高校野球1回戦 遠軽9-10北海 ※延長十回タイブレーク(5月25日、札幌円山)
延長十回2死一、二塁、カウント2-2
昨秋準Vの北海を土俵際まで追い詰めた。2年ぶり出場の遠軽が1-1の四回に4点、さらに延長タイブレークの十回表に再び4点を奪う猛攻を見せたが、最後は最速137キロのエース左腕・葛西大心投手(3年)が逆転サヨナラ3点本塁打を浴び力尽きた。
2点リードの延長十回2死一、二塁。得点圏に走者を背負いながらも勝利までアウトあと一つ。運命の188球目の直前、マウンド上で右手で胸を叩き自らを鼓舞した葛西。カウント2-2からの内角直球が少しだけ甘く入り、小森結人捕手(2年)のミットに収まることはなかった。涙を流しながら整列に加わった。ベンチ裏で何度も仲間に「ホント、ごめん」とあやまりながら大粒の涙を流した。
3番・寺村「打線で助けてあげないと」
試合を通じて、常に主導権を握っていたのは遠軽だった。両チームの安打は遠軽12に対し北海8。上位から下位まで気持ちがいいぐらい思い切り振り抜く同校伝統の〝満振り打線〟を支えたのは、間違いなく葛西の渾身(こんしん)の投球だった。延長十回に左中間へ2点二塁打を放った3番・寺村玲音二塁手(2年)は「ずっと、ああやって頑張ってくれてたんで、やっぱ打線で助けてあげないとなって気持ちでずっといました」。エースの力投に打線が応えた。
ベンチに投手は葛西を含めて3人。阿波克典監督(37)は「もう今日は葛西で行く予定だった」と最後までマウンドを託した。劇的幕切れになったが「もう100点満点ですね。打った(北海の)熊谷くんを褒めるべきかなと。葛西は最後まで逃げずに直球で勝負していた。タイブレークと1球の怖さをしっかり感じることができた。夏はまだ甲子園に出ていないので、夏の甲子園目指して、また練習したい」。大きな収穫を得て、出直しを誓った。
「1勝して(阿波監督を)男にしようと戦っていた」
葛西がこの試合で投げた変化球はスライダー、カットボール、チェンジアップの3種類。だが投球の組み立ての8割を占める直球でグイグイ押し、九回までは一度も連打を許さなかった。180球を超えた延長十回に入っても、スコアボードには最速に近い136キロを表示。公式戦自己最長イニング、最多投球数もタフネスさには自信がある。「壊れてもいい覚悟で投げてました。阿波監督が就任してから全道1勝ができていない。まず1勝して男にしようと戦っていました」と最後まで全力で左腕を振り続けた。
冬の間、葛西は小田聖人部長(41)とつきっきりでトレーニング。春までに球速は6キロアップした。小田部長は「走るスタミナはないけど、投げるスタミナはある」と目を細める。小田部長にとっては母校との対戦となり「絶対に勝ちたかった」と悔しさを押し殺した。
「あの1球を夏までに磨いていきたい」
13年に遠軽が21世紀枠で選抜甲子園に出場し1勝した時は、家族とテレビの前で応援。遠軽中2年で全道大会準優勝し、翌春の全国大会に初出場を決めたが、大会はコロナ禍で中止。「地元に恩返しがしたい」と遠軽高に進んだ。残すは高校最後の夏。「真っすぐで空振りとファウルが取れていたのは大きな成長。でも結果は結果。あの1球を夏までに磨いていきたい。真っすぐを同じ打者、同じ場面で投げても空振りが取れるように。夏の目標はもちろん甲子園」ときっぱり。鉄腕ぶりに磨きをかけて、再び大舞台へ帰ってくる。